Short
■ 対の者 後編

ごう、と霊圧が溢れ出る。
その全てを己の身体が吸収していくのが分かった。
閉じていく傷口が、己の胸の中に居るモノを鎮めていく。
霊圧が全身に行き渡ったとき、ふわりと浮竹に覆いかぶさって来たのは咲夜だった。


「漣、隊長・・・?」
呼びかけに応じない彼女に、浮竹は嫌な予感がして飛び起きる。
抱えた体からは、霊圧が一切感じられない。
微かな笑みを浮かべたその口元も、閉じられた瞼の睫毛の一本でさえ動く気配がない。


「漣隊長!!」
声を上げてその体を揺すっても、目覚める気配はない。
「何故、貴女が・・・!!」
その先を遮ったのは、目の前に現れた二人の少年だった。


「僕らは、漣咲夜の力。そして、浮竹十四郎の力。」
「咲夜は僕らで、僕らは咲夜になった。」
「空っぽになった咲夜の身体を、虚が狙っているよ。」
「君の望みを叶えた咲夜を見捨てる?」
「それとも戦って守る?」


「「さぁ、どっちにする?」」
そんな問いを残して消えた二人の居た場所には一対の斬魄刀。
恐る恐る触れれば指先から彼女の霊圧が流れ込んでくる。
まるでずっと昔からそうだったように、その霊圧が己の身体に馴染む。


「貴女は、俺の、半身、だったのか・・・。」
何故それなのに隊長にまで上り詰められたのか。
彼女は死神なのかそれとも斬魄刀なのか。
今腕の中に居る彼女の身体は一体何なのか。


湧き上がる疑問はたくさんあった。
けれど彼女はこのために生まれてきたのだと、そんな気がした。
そして彼女自身こうなることを見据えていたのだろう。
何も知らなかったのは、自分だけ。


「・・・その刃を取れ、浮竹十四郎。」
冷ややかな声が聞こえてきてそちらを見れば、そこにはいつも彼女の三歩後ろに付き従っていた彼女の副官が立っていた。
冷ややかな声とは裏腹に、その瞳には悲しみが滲んでいる。


「もう一度言う。その刃を取れ。」
言いながら彼は浮竹の腕の中から咲夜を抱え上げる。
「・・・それが、ずっと、この方の、願いだった。」
彼女を片腕に抱えなおして、彼は刃を抜く。


「今、決めろ。その力を手にして修羅の道を行くか、その力を捨てて安寧を選ぶか。もっとも・・・お前の友は前者を選んだようだがな。」
彼の視線を追って京楽を見れば、彼は一対の刃を手にして戦っていた。
京楽が選んだのは、修羅の道。


「俺、は・・・。」
戦う京楽の姿。
恐れを抱きながらも刃を振るい続ける同期たち。
自分を生かすといった彼女。


「・・・その人を、お願いします。」
最後に副官の彼を見た浮竹は、深々と彼に頭を下げる。
返事を待つこともせずに、迷わず己の斬魄刀を掴むと修羅の道に飛び込んでいく。
その姿に、副官の男は眩しげに目を細めた。


「数奇な星のもとに生まれ、悲しみも苦しみも人一倍多い。けれど彼は、貴女の見立て通りに己の歩む道を選択しました。貴女と歩む、修羅の道を。それこそ、最期まで。・・・貴女は最後までそれを俺には許してくださらなかった。貴女は最初から彼しか選びませんでしたねぇ。」


呑気な呟きを残して、彼は地面を蹴る。
破竹の勢いで虚を斬っていく二人の青年に負けないように、彼もまた刃を振るう。
返り血の一滴も彼女に降りかからないようにしながら。
時折、彼女がそうしていたように、部下たちをその背に庇って。


「・・・貴方は、何故、副隊長なんか、やっているんです?」
「息一つ上がってないとか、一体どうなってるの・・・?」
全ての虚を始末してから、息も絶え絶えに浮竹と京楽は彼に問う。
彼女を抱えているのに、倒した虚の数は二人の数を合わせても足りないほど。


「俺は十三番隊の副隊長だ。正真正銘漣隊長の右腕だぞ。この人の副隊長が並みの副隊長なわけがないだろう。さらに言えば、この人のお望み通り、次の十三番隊隊長はこの俺だ。悔しかったら、追いついて来い。そんな訳で、俺は余計な荷物を持っている余裕がなくなった。だからこの人はお前に預けておく。」


「預け、る・・・?」
腕に抱えさせられて、浮竹は首を傾げる。
「その体は生き続ける。その魂魄がお前の中にある限り。目覚める可能性は無きにしも非ず、だな。丁重に扱えよ。じゃあな。」


「・・・ねぇ、浮竹。漣隊長の身体、どうするわけ?男子寮は女人禁制だろう?」
「だよな・・・。かといって実家に任せるわけにもなぁ・・・。」
「僕の家っていう手もあるけど、何かあっても対応しきれない可能性もあるしねぇ。」
咲夜を抱えて立ち尽くす二人の背後に影が一つ現れる。


「・・・では、四番隊の救護詰め所にてお預かりいたしましょうか?」
びくりとして振り返ればそこには四番隊隊長卯ノ花烈の姿があって二人は目を丸くする。
「そ、れは、願ったり、叶ったりですが・・・。宜しいのですか?」
真っ直ぐな瞳に、卯ノ花は微笑む。


「構いません。何かあればすぐに対応できる場所です。空き部屋もありますから、そこを咲夜の部屋にしてしまいましょう。空き部屋の片づけと、十三番隊から彼女の荷物を運び出す手筈を整えなければなりませんね。・・・お二人とも、お手伝いいただけますね?」


「もちろんです。ですが、何故、そこまでしてくださるのですか?」
「彼女にはたくさん助けて頂きましたから。このくらい、大したことではありません。」
微笑む卯ノ花を真っ直ぐに見つめた二人は、それ以上何も言わずに頭を下げた。
「「よろしくお願いします。」」


それから数十年経っても彼女は眠り続けている。
浮竹が、彼女と同じ隊長羽織を羽織ることになっても。
けれど昏々と眠り続ける彼女の元に通う浮竹の足は絶えない。
それが功を奏してか、彼女は目覚めることになるのだが、それはまだ先のことである。



2018.05.07
生きたいと願った浮竹さんと、彼を生かしたいと願った咲夜さんの心が同調した結果、浮竹さんの力となった咲夜さんでした。
咲夜さんの副官の男は、隊長となってから入隊してきた浮竹さんをビシバシ扱くのだろうなぁ。


[ prev / next ]
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -