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■ 対の者 前編

「現世にて虚の大量発生を確認!至急現世へ向かえとの命が下されております。尚、現在現世実習中の統学院一回生浮竹十四郎及び京楽春水が逃げ遅れた院生を庇いながら交戦中とのこと!護衛の死神たちは分断されており救出に向かえないとの報告あり!」
緊急伝令を聞いた咲夜は己の副官をちらりと見やってから窓からその身を翻した。


・・・ついに来たか。
護廷十三隊で一、二を争う瞬歩で全力疾走をしながら咲夜は内心で呟く。
視ようとしなくても頭の中に流れてくる光景の中には、恐怖に足を竦ませて動けなくなっている院生を庇いながら戦う二人の院生の姿がある。


不意に、どくり、と何かが脈打った。
その気配は白い男の胸のあたりから。
・・・拙い。
そう思った瞬間、白い男が盛大に咳き込み、その隙を狙って振り上げられた虚の爪が男の胸を貫いた。


『霊王め・・・!!私は一生お前などに支配されてはやらないからな!!』
憎々しげに吐き捨てながら、咲夜は旋界門の中に飛び込む。
懐から次々小刀を取り出しては投げて座軸を調節しながらひたすらに駆ける。
見えてきた出口が思い通りの場所であることを確認してから躊躇いもなく飛び出した。


『・・・縛道の八、斥!』
小さな円盤が巨大な虚の爪を簡単に受け止める。
五本の爪の全てを。
疑似重唱、と誰かが呆然と呟いたのが聞こえる。


『破道の三十三、蒼火墜。』
淡々と呟かれたその手から放たれた鬼道がいとも簡単に虚を消し飛ばしたことに、京楽は戦慄する。
これが、隊長の力か・・・。


『京楽春水。私は十四郎の治療に入る。』
くるりと踵を返した咲夜は、京楽の脇をすり抜けるようにして浮竹に駆け寄った。
胸を貫かれた浮竹のために張った結界を蜘蛛の巣を払うような簡単さで壊して、既に虫の息となっている彼の頬に触れる。


『・・・何を呆けている京楽春水。さっさと虚を始末しないと死ぬぞ?』
一瞥をくれることもない酷い言い草に、京楽は思わず反論の声を上げる。
「僕一人にあの量は無理でしょ!!」
言いながら京楽は遅い来る虚を斬り捨てているのだが。


『安心しろ。君の浅打は君の命が危険に晒されれば目覚める。』
淡々と言われて京楽は開いた口が塞がらない。
『四半刻も経たないうちに応援が来る。それまで持ち堪えればいい。・・・そこに居る君たちもだ。その腰のものが飾りでないのなら、立ち向かえ。院生とはいえ、死神の端くれだろう!』


「あぁ、もう!解ったよ!戦えばいいんでしょ!その代わり、浮竹を死なせたら許さないよ、僕は。」
『案ずるな。十四郎は私が必ず助ける。』
「そうかい。・・・皆!複数で取り囲んで協力して虚を斬ってくれ!僕も戦うから!」


『大丈夫。君たちならば斬れる。』
震える手で浅打を鞘から引き抜いた院生たちに、咲夜はそう声を掛ける。
その声にぎこちなく頷いて、彼らは緊張した面持ちで虚と対峙した。
京楽の指示に従って動き始めた彼らに一息ついて、咲夜は浮竹を見つめる。


『・・・まだ、貴方にこの男を差し上げるわけにはいかない。』
浮竹の傷口から覗くぎょろりとした一つの目。
『大体なぁ、生かすなら最後まで生かせ!だから私はあんたが嫌いだ!』
悪態を吐きながら浮竹に霊圧を注ぎ込み、霊圧の回復にかかる。


「う・・・。」
浮竹が小さく呻いて、その瞳がゆっくりと持ち上げられる。
『気が付いたか。なぁ、十四郎。君は、生きたいか。』
その気怠げな瞳を覗き込んで、咲夜は問うた。


「・・・いき、たい。」
だって俺は、己の役目を全く果たしていないんだ。
そんな心の声が聞こえてきて、咲夜は苦笑する。
これ程鮮明に聞こえてくるとは・・・。


『ならば生きるがいい。君の役目とやらが終わるまで。』
これで私は私であって私ではなくなるけれど。
浮竹の握る浅打を掬い取って、その切っ先を浮竹の胸に突きつける。
その様子を浮竹の瞳が緩慢に追いかけて、最後に咲夜に視線を向けた。


『今一度問おう。生きたいか、浮竹十四郎。』
「俺、は、生きたい・・・。」
『では私が君を生かす。君に生きていて欲しいのは、私も同じだからな。』
そう言った彼女の霊圧を吸い上げるように浅打が反応して光を帯びる。


『我が君に、私の全てを授けよう。』
呟かれた声に浮竹は聞き覚えがあった。
ある時は夢の中で、またある時は戦いの最中で聞こえてきた声。
それは己の力の片鱗だと、元柳斎先生が言っていた・・・。


『・・・波悉く我が盾となれ。雷悉く我が刃となれ。』
その解号の後に続くのは、己の力の名前。
『双魚理。』
それと同時に胸に刃が突き立てられたはずなのに、浮竹は一切痛みを感じなかった。



2018.05.07
後編に続きます。


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