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■ 引き出された本音 後編

「・・・面を上げろ、侘助。」
その声が聞こえたかと思えば、周りの子分たちがいつの間にか真っ二つにされている。
一太刀で、ここまで・・・。
唖然としていると腕を掴まれて、意外に強い力で引っ張られる。


ひゅん、と目の前が何かを通り過ぎた。
よく見れば、砂地から何本も触手のようなものが伸びている。
それらが私たちを取り囲むようにして次々と攻撃を仕掛けてきた。
斬魄刀を抜いて慌てて応戦する。


「隊士たちは退避させた。各自結界を張っておくように指示も出してある。あれは僕らで始末するよ。」
その間に吉良副隊長は何度も刀を振るう。
すると次第に触手の動きが遅くなって、砂の上に崩れ落ちた。


『何故・・・。』
「斬ったものの重さを倍にする。一度斬れば二倍、もう一度斬ればさらに倍。何度か斬ったからもう重くて動かせないはずだ。」
言いながら本体へと向かう副隊長の瞬歩は速い。


これが、副隊長か。
あの一瞬の間に隊士たちを退避させて、指示まで出して。
逃げ遅れた私のことまで助けて、さらに相手の次の手を観察している。
やはり、その辺の席官とは格が違うのだ。


他人に助けられたのは、初めてだ・・・。
いつも私は助ける側で、助けられる側になったことなどない。
私の腕を引いた力は、強かった。
体格は殆ど変わらないはずなのに、片手だけで・・・。


どくん、と心臓が大きく脈打った気がする。
この人と一緒なら、私は、手加減をする必要がない。
だって、吉良副隊長の方が強いから。
周りのことを考えて、いつも全力を出すことは控えていたけれど。


ごう、と斬魄刀が風を呼ぶ。
嵐華が、共鳴している。
吉良副隊長の、霊圧に。
釣られるように霊圧を上げれば、吉良副隊長が小さく笑った気がする。


『何を笑っているんです?』
「君の全力を見ることが出来るのかと思ったら、わくわくして。」
『私の全力?』
首を傾げた私に副隊長は笑って、後で話す、とまたもや瞬歩で先に行ってしまう。


「行くよ、漣さん。僕が足止めをするから君はその斬魄刀を存分に振るうといい。」
慌てて追いつけば副隊長は鬼道を構える。
「縛道の六十三、鎖条鎖縛!」
放たれた鬼道が虚を拘束した。


『・・・嵐華。』
名を呼べば、斬魄刀が風を呼ぶ。
この常時開放型の斬魄刀は、鞘から抜くだけでその力を使ってしまう。
風を呼び、嵐となって、その花弁を散らす。


吹きすさぶ風が、ごうごうと音を鳴らす。
巻き上げられた砂が、視界を悪くする。
その中心にいるのは、私。
風を味方につけた瞬歩は、いつもの数倍速い。


『さようなら。砂の中の主。』
振り下ろした刃は易々とその巨体を貫き、その刃が纏う風がその肉を裂く。
虚の悲鳴がその場に轟いて、すぐに消える。
嵐華の風が虚の悲鳴すら呑み込んで、静寂がその場に舞い降りた。


嵐華を鞘に収めて虚が居た場所を見つめれば、そこには跡形もない。
舞いあげられた砂は、上空の風に乗ったらしくどこかへと流れていく。
次第に晴れていく視界に、青い空が映る。
綺麗だな、なんて眺めていれば、足元がぐらりと揺れて。


「お、っと。大丈夫かい?」
いつの間にか背後に居た吉良副隊長が、私の背中を支える。
『駄目、みたい、です。』
苦笑を漏らせば軽々と体を持ち上げられて、悲鳴を上げる。


『吉良副隊長!?降ろしてください!』
「立っているのもやっとな女の子を放っておくわけにはいかないだろう。」
『女の子!?っていう年でもないような・・・。ていうか、私、副隊長よりも年上な気が・・・。』


「そうなのかい?それじゃあ、言い方を変えよう。立っているのがやっとな女性を放っておくわけにはいかない。」
『じょ、せい・・・。それはそれで、恥ずかしいといいますか・・・。』
「そうかい?まぁ、君が何と言おうと、今日はこのまま抱えて帰るつもりだけど。」


『えぇ!?いや、あの、吉良副隊長?私にも、その、一応、立場というものが・・・。』
「逆ならまだしも、副隊長が十二席を守ることに何の疑問が?」
『いや、その、そういうことでは、なくて、ですね・・・。その、私は、誰かに、守られたり、支えられたり、甘やかされたり、というのが、苦手、といいますか・・・。』


「そのようだね。君はいつも誰かを守る側で、支える側で、甘やかす側だ。それなのに自己評価が低い。それはさっき言っていたお兄さんが優秀だからなのだろうね。君の比較相手はいつも彼で、だから君は人より優れているという自覚がない。何より、君が目指すのはお兄さんだから、彼以外に自分よりも優れている人が居ても目を向けることがない。」


『な、ぜ・・・。』
全て図星だった。
何故この副隊長が、そこまで私のことを知っているのか。
全てを見透かされたようで悔しいのに、どうして私は泣きそうなのだろう。


「君の世界は、もっと広いよ。君が追いかけるべきは、お兄さんだけなのかい?雛森君や、平子隊長は?君と騒いでいた先輩だって、見習うべき点がたくさんあるだろう?自分の力を、もっと引き出してみたいと思わないかい?さっきみたいに、全力を出しても構わない相手がお兄さん以外にも欲しくはないかい?」


あぁ、そうか。
私のあの孤独感は、物足りなさだったのだ。
もっと、もっと、と思うのに、本気をぶつけられる相手が居なかった。
だから現状に甘んじていた。


『・・・欲しい、です。出世をしたいと思う訳ではないけれど、私は、もっと自分の力を使いたい。戦いが好きなわけではないけれど、力が欲しい。そして、その力を使う機会が欲しい。』
そして、叶うことならば、絶対に敵わない相手が欲しい。


「それなら、三番隊に来てくれないか。」
『え?』
「実は、この任務で一つ、賭けをしていてね。君の本音を引きずり出せたら、僕の勝ち。それが出来なければ、平子隊長の勝ち。」


『何ですか、それは・・・。』
「平子隊長は、気が向くと君に無茶ぶりをするそうだね。それは何故だと思う?」
『私で遊んでいるから・・・?』
「君に全力を出させるためだよ。平子隊長は、君を本気にさせたいんだ。」


『本気に?何に対してです?』
「君はなんでも卒なくこなすから、もっと何でも出来るんじゃないか、って。君にはそう思わせる何かがあるし、実際実力も伴っている。それなのに本人はその気がない。見る人が見れば宝の持ち腐れと思うだろうね。」


『それで、何故吉良副隊長が平子隊長と賭けを?』
「三番隊は今、七席が空席になっている。君にそこを埋めてもらおうかと思って、雛森君に相談したんだ。そうしたら、平子隊長から出された条件が君の本音を聞き出すことだった。僕はその条件をクリアしたから、君を三番隊に呼ぶつもりだよ。」


どうかな、なんて簡単に言ってくれるものだ。
私が嫌だと言ったって、吉良副隊長は私を三番隊に連れていくつもりだ。
そしてきっと、平子隊長はそれを止めない。
勝手にしろやとか言って、背中を押すことも、引き留めることもしない。


『吉良副隊長は、何故、私を三番隊に・・・?』
「君自身に興味が湧いたからかな。周りに人が居るのに一定の距離間を保って自分の領域に踏み込ませない。他人のことは見透かすくせに、自分を見せないから狡い・・・と、いう然る人物の言葉を聞いてね。彼にそう言わしめるのが一体どんな人物だろうか、と。」


『然る人物・・・?』
聞き返せば、吉良副隊長は曖昧に笑う。
いつの間にか隊士たちのところまで運ばれていたらしく、結界を解いた彼らが駆け寄ってきて、話が中断される。


数日後、予想通りというべきか、任官状を持った吉良副隊長が姿を見せて。
受け取ってくれるかい、なんて悪戯に聞くものだから。
決定事項にしているくせに何を言っているのですか、なんて。
呆れたように言ってそれを受け取れば、吉良副隊長はくすくすと笑いだすのだった。



2018.04.16
何故こんな話になったのだろうか・・・。
もっと甘い話になるはずだったのですが、咲夜さんと吉良くんが勝手に動き出しました。
咲夜さんのように何でも器用にこなしてしまう人っていますよね。
羨ましいです。


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