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■ Capacity over

「総隊長の弟子とやらは良いご身分だよなぁ。下級貴族の出でも京楽家と仲良くできるし、どんなに病弱だって学院を辞めさせられることはない。都合が悪くなれば調子が悪いと言い訳もできるし、その髪だって、本当に病気で白くなったのかどうか。そもそも、本当に病弱なのかどうかも怪しいよなぁ。」


またか。
すれ違いざまに言われた言葉に、浮竹は内心でため息を吐く。
死神になるべく統学院に入学して数か月。
一人で居ると、こうして敵意をむき出しにしてくる奴がいる。


・・・まぁ、仕方がないか。
他人と違う見た目と、他人より弱い体。
幼いころから嫌というほど思い知らされてきたそれは、死神になるべく日々鍛錬を積み、それなりに苦労をしてきたであろう彼らからすれば特異でしかないだろう。


これもまた、己の身の内に居るモノからの試練なのだろうか。
もしそうだとしたら、俺は、一生これを抱えていくのか。
己の宿命に、少しだけ嫌気が差す。
何故俺なのだ、と。


『・・・弱い奴ほどよく吠えるというのは、事実のようだな。』
暗澹たる気持ちになりつつもどう躱そうかと考えていると、女にしては低めの声が聞こえてきた。
そちらを見れば、いつから居たのか、窓枠に肘をついて退屈そうにこちらを見つめる女が一人。


「・・・漣、さま・・・。」
その女を見た彼らは、一瞬で顔を青褪めさせる。
彼女がそんな彼らに一瞥をくれれば、彼らは条件反射のように片膝をついて首を垂れた。
死覇装の上に羽織っている白い羽織を見て取って、浮竹も片膝をつこうとする。


『君はそのままでいいよ、浮竹十四郎。君に頭を下げられると酷く複雑な気分になる。』
その言葉に首を傾げれば、彼女は自分の肺のあたりをとんとん、と指先で叩いた。
「ご存知、なのですか・・・?」
『まぁね。幼い君が死にかけていた姿が視えたから。』


「あの場には、俺と両親以外に人が?」
そんな話は聞いていない、と怪訝な顔をすれば、彼女は苦笑を漏らす。
『視えた、と言っただろう。どうやら君は本当に私を知らないらしいな。まぁいい。・・・私は、十三番隊隊長、漣咲夜だ。千里眼、と言った方が分かるかな。』


千里眼。
その呼び名を聞いた浮竹は、目を瞠る。
目の前に居るこの女が、千里先を見通し、未来すらも視えているのではないかと噂されるほどの瞳を持つ、あの漣家の姫君なのか。


驚きながらも目の前の女を見れば、彼女は微かに目を細める。
まるで微笑んだように。
表情の変化はそれだけだったが、浮竹にはそう見えて、首を傾げた。
何故彼女は微笑んだのか、と。


『・・・なるほど。肝が据わっている。私が何者かを知っても、私の瞳を真っ直ぐに見るか。私が何者かを知った者は、大抵私から目を逸らすというのに。ただの馬鹿か、後ろ暗いことが何一つないのか。それとも、すべてを見透かされたところで君にとっては大した問題ではないのか。もしそうだとすれば、末恐ろしいな。』


「・・・そうして他人の思考を読むから、目を逸らされるのでは?」
殆ど無意識に出た言葉に、慌てて口元に手をやる。
『ほう?何故、そう思う?』
問われて、返答に詰まる。


「何故だろうな・・・。でも、貴女は、無闇にその力を使ったりはしない。他人の思考が読めてしまうだけで、全てが視えているわけではない・・・ような気がする。」
浮竹の言葉に咲夜は目を丸くして、それから声を上げて笑う。
無邪気な笑い声に目を丸くしていれば、愉快そうな瞳がこちらに向けられた。


『はは。その通りだ!実は私も先読みを外すことがある。相手が遠くにいるほどその動きを読むのは難しい。だから君を近くで見てみようと来てみたんだが・・・なるほど。君は確かに読めない男だ。それだけで、他の弱点を補うくらいに、読めない男だ。単純そうに見えたのに、君は実は複雑な男なんだな。』


・・・果たしてそうだろうか。
自己分析など殆どしないが、京楽にはいつも解りやすいと言われ続けているのだが。
彼女の言葉を反芻していると、こっちに来いと手招きをされたので、窓に近づく。
掴まれた腕を引かれるままに体を傾ければ、彼女は耳元で囁く。


『・・・実はな、私の夫となる相手として君の名前が挙がっている。総隊長殿のただのお節介かとも思ったが、どうやらそれだけでもないらしい。だから君を観察に来た。けれど、君を見て解ったよ。しかし、私は十日後に見合いの予定がすでに入れられている。さて、君はどうする?次は君が私の思考を読んでみろ。働きに期待するぞ、十四郎。』


ちゅ・・・。
その言葉と、言葉の後に頬を掠めた温度に唖然としていれば、そういえば、と彼女は視線をずっと固まっている彼らに向ける。
にやり、と悪巧みの気配を感じて、反射的に彼女の口元を手で覆った。


何をする、とばかりに見上げてきた彼女から慌てて手を離せば、その唇が楽しげに弧を描く。
しまった、と思ったのは一瞬。
彼女の言葉を止めるのは、間に合わない。


『お前たち、今見たものを皆に伝えろ。我が唇が触れるのは、浮竹十四郎だけだという言葉と一緒にな。・・・行け!』
彼女が指を鳴らせば弾けるように皆が地面を蹴って姿を消した。
一瞬で広まるであろう噂に、浮竹はただただ呆然とする。


『ほう?奴ら、意外と足が速いな。ふふん。京楽春水が慌ててこちらに来るようだ。隠れて見守ることにしよう。ではな、十四郎。十日後のこと、期待している。それから、君の学院生活が愉快なものであることを願っているよ。』
そう言い残して姿を消した彼女を追いかけようとする前に、浮竹はやって来た京楽につかまって、出鼻を挫かれる。


・・・大変なことになった。
京楽に大きく肩を揺らされながら、浮竹は思う。
何故俺なのだ、と。
もっとも、先ほどの暗澹たる気分とは違って、どこかに突き抜けてしまったような感覚なのだけれど。


「俺の人生は、一体、どこへ向かうんだろうなぁ・・・。」
「え?浮竹!?大丈夫!?ねぇ、浮竹!!」
揺さぶられすぎたからか、意識が遠くなっていく。
そんな俺を見て取った京楽がさらに揺さぶるものだから、そこで意識が途絶えてしまうのだった。



2018.01.22
タイトル通りキャパシティを超えた浮竹さん。
何故こんな展開になったのだろうか・・・。
自分でも不思議です。
続編があるかもしれません。


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