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■ 幸福者

黒髪が靡き、白い羽織が翻る。
その瞳は鋭く、その顔に表情はない。
威厳ある背中と他人を寄せ付けない雰囲気。
・・・冷たい人。
それが、彼・・・朽木白哉に対する第一印象。


今となっては、それが彼の身の守り方で、彼の立場がそうさせていることを理解している。
彼は決して冷たい人ではなく、むしろ、温かい人で。
不器用さがそれを隠していることに気が付けば、なんだかほっこりとして、思わず笑みが零れる。


「何を笑っている。」
他人が聞けば淡々とした声。
でも、その声が柔らかいことを私は知っている。
それがまた彼の不器用さの一因で、今度は小さく声を上げて笑った。
そんな私に、彼は不満げな視線を向ける。


そんな彼にまた笑って、不満そうな彼の頬に手を伸ばした。
頬に触れれば、彼は瞳を閉じて、小さく私の手にすり寄る。
普段の彼を知る人ならば、この様子を想像することも出来まい。
その姿が何とも可愛らしい。


こつん、と、彼の額に自分の額をぶつければ、彼の瞳が開かれる。
至近距離で見つめられて、その瞳に吸い込まれそうになった。
そんな私に気が付いたのか、ふ、と彼の瞳が笑う。
彼は無表情と言われるけれど、彼の瞳は沢山の感情を映し出す。
目は口ほどに物を言う、とは、彼のことだ。


そんなことを考えていると、いつの間にか後頭部に彼の手が回されていて、そのまま引き寄せられる。
抗うことなく引き寄せられて、瞼を閉じる。
それを合図にしたように、彼の唇が重ねられた。
重なった唇は温かい。
何度も啄むように口付けられて、それがくすぐったくて、また笑う。


「・・・先ほどから、一体、なんなのだ。」
拗ねた声。
ゆっくりと瞼を開ければ、拗ねた瞳がそこにあった。
心なしか、表情も拗ねているようである。
それが可愛くて、愛しくて、今度は自分から口付ける。
彼はそれを受け入れてくれるが、私が彼の問いに答えないことが不満らしい。
唇を離して彼を見れば、先ほどよりも拗ねているようだった。


「咲夜。」
口を開かない私に焦れたのか、彼は私の名を呼ぶ。
拗ねてはいるが、柔らかな声。
そんな声で呼ばれる自分の名が大切なものになる。
名を呼ばれるだけで、私は舞い上がってしまうのだ。


『・・・幸福とは、今この時を言うのでしょう。』
「幸福?」
『えぇ。私は幸福だと思って、笑ってしまったのです。・・・白哉様。』
「なんだ?」
『白哉様は、今、幸福ですか。』
「もちろん。今だけではない。そなたが傍に居るのならば、私はこれから先も幸福者だ。」


『ふふ。それは嬉しゅうございます。・・・愛しています、白哉様。』
微笑みながら言えば、彼もまた小さく微笑む。
「私もだ。愛している、咲夜。」
甘い言葉と、甘い声。
その甘さにくらりと眩暈がする。


今の彼は何よりも甘く。
誰よりも温かく。
彼に与えられるものが、私を満たしていく。
彼の全てが私を包み込む。


少し我が儘で、不器用で、天然で、時折甘えん坊になる。
そんな彼が愛しくて仕方がない。
私はもう、彼を冷たい人だとは思わないだろう。
温かい人。
それが、彼の印象で、彼の真実なのだ。


抱き寄せられて密着した部分が温かい。
彼の腕の中は心地良いのだ。
愛しむように髪を梳かれて、とろり、とした微睡がやってくる。


『白哉、様。』
「なんだ?」
『ふふ。温かい・・・。』
そういって擦り寄って、微睡に身を任せる。
意識を手放す直前に、彼は小さく笑ったようだった。



2016.03.17
きっと、白哉さんは非番。
朽木家の縁側に座って、咲夜さんと穏やかな休日を過ごしているのでしょう。


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