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■ 近い君

「・・・あぁ、くそ。無茶苦茶してくれる・・・。」
木陰に寝そべって呟いた声が届いたのか、くすくすと忍び笑いが聞こえてきた。
『珍しい。十四郎が悪態を吐くなんて。』
悪戯に言って顔を覗き込んできたのは、咲夜である。


「お前の兄貴のせいだぞ・・・。」
先ほどまでの打ち合いを思い出して、げんなりとする。
最近の怜司は、俺の調子が悪くないと聞くや否や、すぐに修練場に連れ出してくれるのだ。


お陰で調子のいい日までこうして転がっていなければならない日々。
毎回逃げようと試みるのだが、相手のほうが一枚上手で、すぐに捕まってしまう。
院生と言えども、相手は六回生の主席である。
己の師と比べればその差は歴然だが、俺からすれば相手に不足はないといったところで。


『ごめんね?お兄様ったら、十四郎を苛めるのが楽しいみたい。』
いつの間にか修復されたらしい怜司と咲夜の関係が良いものになっていることすら恨めしくなってくる。
最も、咲夜が良く笑うようになったことに関しては安堵と共に喜びを覚えるけれど。


「毎回毎回、勘弁してくれ・・・。」
溜め息と共に呟けば、隣に座り込んだらしい彼女にさらりと前髪を梳かれる。
その指先が心地よくて、目を閉じた。
いつもより高い体温に彼女の手の冷たさが丁度いい。


『お兄様に、十四郎をあんまり苛めないで、って言っておくわ。』
「そうしてくれ・・・。」
『でも、お兄様が本気になるのは十四郎相手にだけだから、たまには相手をしてあげて。』


最近の彼女は何だか兄贔屓だ。
少し悔しくなったので、もぞもぞと動いて彼女の膝に頭をのせる。
子どもみたい、なんて呟きが聞こえた気がするが、そのまま眠る体制に入った。
苦笑しながらも彼女の手はあやすように俺の髪を撫でる。


「・・・咲夜。」
彼女の体温の心地よさに微睡がやって来て。
「いつか必ず、お前に相応しい男に、なってやるからな・・・。」
呟いた言葉が彼女に届いたかどうかの確認をする前に、眠りに落ちた。


『・・・十四郎ったら、馬鹿なんだから。そういうことは寝言のように呟くものじゃないのに。大体、こんなに近くに居るのに、今更何を言っているのやら。』
眠った十四郎を呆れたように見つめて、咲夜は呟く。
それでも彼女の手は愛しげに十四郎の髪を撫で続けるのだった。



2017.11.06
珍しく短い文章ですね・・・。
唐突に木陰で寝そべって悪態を吐く浮竹さんが思い浮かびました。
陰で二人の時間を邪魔しようとする怜司と、二人の時間を邪魔させたくない京楽さんの静かな戦いがあったら面白いです。


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