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■ 最優先事項

「・・・好きです。私と、付き合っていただけませんか?」
人気のない隊舎裏。
小さく震えながら目の前の男にそう言った女性隊士。
言われた男は、困ったような笑みを見せて口を開く。


『・・・ごめん。私には、婚約者がいるんだ。今はまだ、内密にされているけれど。政略的な面がないとは言わないけど、それでも私は、その婚約者が大切だ。だから君の想いに応えることは出来ない。』
「そう、ですか・・・。聞いてくれて、ありがとうございました。」


泣くのを堪えながら男に頭を下げた女は、逃げるように去っていった。
ごめん、と男はもう一度呟く。
小さくため息を吐いた男は、地面を蹴って塀を軽々と越えてきた。
とん、と軽い音を立てて私の隣に来た男は、塀に背中を預けている私を見て、溜息を吐く。


『・・・盗み聞きか、白哉?』
「難儀しているようだな、咲夜。」
『護廷隊でその名を呼ぶな。私はまだ漣絢夜だ。』
声を潜めて窘める「彼女」に笑えば、じとりとした視線を向けられた。


「男装が様になりすぎるというのも、面倒だな。」
短く切りそろえられた彼女の髪を指先で弄べば、やめろ、とその手を振り払われる。
『変な誤解をされたらどうする。それでなくても、君のせいでこんな格好をする羽目になったのに。』


朽木白哉の婚約者が入隊する。
そんな噂が流れたのが数年前。
実際、彼女が入隊することは決定していたのだが、朽木家と繋がりがあることが知られては正当な評価がなされない、と彼女は男として入隊することを決めたのだった。


男どもに目を付けられるよりはましだろう、とそれを許可したものの、これ程までに女性受けがいいとは予想外だ。
中性的な彼女の姿を眺めながら、白哉は思う。
入隊して数年で人気ランキングとやらで上位に入ってしまうのだから、彼女の注目度は高い。


「そう拗ねるな。」
『誰のせいだ、馬鹿。』
「私のせいだな。」
『・・・その余裕が余計に腹立たしい。』


何だか馬鹿馬鹿しくなってきた、と彼女は踵を返そうとする。
その腕を掴んで引けば、彼女はぽすりと私の胸の中に収まった。
逃げ出そうともがく彼女の顎を捕まえて、その唇に口付けを落とす。
一瞬で赤くなった顔にもう一度唇を落とせば、彼女は悔し気に見上げてきた。


『・・・白哉なんか、男色だと思われてしまえ!!』
「相手がお前ならばそれも構わぬぞ?」
『な、朽木家当主が、そんな噂を流されてもいいのか!?』
「構わぬ。・・・そうすれば、公私共にお前を私のものにすることが出来るからな。」


『・・・白哉の、馬鹿!!』
脱兎の如く私の腕から逃れた彼女はそう言って私から距離を取った。
『もう、護廷隊で近づくのは禁止だ!』
そう言い捨てて背中を向けた彼女に内心苦笑しながら声を掛ける。


「絢夜。」
『な、なんだ?』
「早く席官になれ。隊長と平隊士では、共に歩くことも出来ぬ。これ以上お前との時間がないようならば、私は咲夜を奪いに行くぞ。婚約者として。」


『・・・そんなの、解っている!大体、私だって・・・白哉が、足りないんだ、ばか。』
消え入りそうな声で言って、彼女は瞬歩で姿を消す。
・・・・・・それは、狡いだろう。
素直でない婚約者の可愛い本音に眩暈がしそうだ。


「追いかけられないのが、惜しいな。」
白哉は呟いて、歩を進める。
席官にもなれぬような者に、朽木家当主の妻が務まるか!
そう言って席官になるまで結婚は認めないといった彼女の父を思い出す。


本来ならば、私の一存で全てが決められるのだが。
彼女の父は頑固者と有名で、一度決めたらその意思を曲げない。
そして彼女自身が負けず嫌いであるために、白哉は待たされているのだ。
もっとも、待ちきれなくなれば遠慮なく彼女を奪うつもりではあるのだが。


我が六番隊に配属されれば、もう少し顔を合わせる時間があっただろうに。
今頃十番隊の隊舎に到着しているであろう彼女を想って、苦笑する。
私も大概公私混同が甚だしいな・・・。
彼女の父は、それすらも見抜いて私たちを試しているのやもしれぬ。


「・・・早く来い、咲夜。」
呟きを零して、地面を蹴る。
隊主会への遅刻の言い訳を考えながら。
どんな理由をつけても総隊長に一喝されるだろうが、彼女のためならばそれすらも小さなことだと思えてしまう自分に、何度目かの苦笑を漏らすのだった。



2017.10.30
秘密の婚約者である咲夜さんと白哉さん。
なんだかんだで白哉さんは楽しんでいそうです。
もちろんこの後総隊長の大きな声が瀞霊廷に轟くのでしょうが。
白哉さんの最優先事項はいつだって咲夜さんなのだと思われます。


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