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■ 彼と彼女の考察

「咲夜。」
『はい、白哉様。咲夜に何か御用ですか?』
白哉が呼べば、嬉しげに彼に近寄る少女。
「この資料を持って来てもらえるか。」
『はい!畏まりました!すぐにお持ちいたします!』
用件を言いつけられれば、少女はパタパタとこれまた嬉しげに駈けていく。


『お持ちいたしました、白哉様。』
「あぁ。・・・これは?」
『あの、その、そちらは、この資料を使うのですから、その数値表があった方がよろしいかと、思ったの、ですが・・・。』
「よく解ったな。助かる。」
『いえ!』
白哉が褒めれば、少女は弾けんばかりの笑顔を見せた。


その様子を見ている男が一人。
六番隊副隊長、阿散井恋次である。
筆を手にして机に向かいながらも、二人の様子に内心で首を傾げているのだった。


・・・この二人、本当に恋人なのか?
二人の様子に、そんな疑問ばかりが湧きあがるのだ。
一方は己の上官で、誰もが一度は憧れるであろう、朽木白哉。
もう一方は、少女と呼ぶに相応しい姿ではあるが、その能力の高さは誰もが認める六番隊の第五席、漣咲夜。


今、恋次の目の前に居るのは、そんな二人で、その二人は恋人同士なのだ。
二人の出会いはルキアを養子にする前であり、咲夜は没落した貴族の末の娘。
元々はそこそこの貴族であったが、財政難により里子に出されていたのだ。
それを浮竹が拾い、緋真を失って傷心中の白哉にはこのくらいがいいだろうと、朽木家に彼女を送り込んだのである。


まぁ、それは、結果として功を奏したわけだが。
恋次はちらりと二人を見る。
黙々と仕事を熟しては、時折、隊長が漣に命令をして、漣は嬉しげにそれにこたえるのだった。


・・・どう見ても、飼い主とペットにしか見えねぇ。
恋次は内心で呟く。
彼には、咲夜が飼い主に名を呼ばれて喜ぶ子犬にしか見えないのだ。
そのような少女を、何故、朽木隊長が選んだのか。
恋次には理解できない。


確かに仕事は優秀で、事務処理能力などは、正直、俺よりも上だ。
花が咲くように笑い、大きな瞳が輝くのを見ると、何となく頬が緩む。
しかし、恋愛の対象とすることが出来るか、と、問われれば、答えは否、である。
朽木隊長のために一生懸命で、恋次から見ても可愛い後輩であるが、それだけだった。
恋次は、白哉が咲夜を恋愛の対象として見ていることが不思議で仕方ないのである。


そこへ、ひらり、と、地獄蝶が舞い込んでくる。
漣がそれを指に止まらせて、隊長の方にその手を差し出す。
「三番隊より救援要請。北流魂街にて虚の発生を確認。複数の住民が襲われている模様。応援を派遣されたし。」


「・・・恋次。」
呼ばれて恋次は立ち上がり、斬魄刀を手にする。
「すぐに出ます。」
「任せた。」
「はい、隊長。」
「行ってらっしゃいませ、阿散井副隊長。お気をつけて。」


それから一刻。
「あー、疲れた。流魂街の奴らを庇いながら戦うって、神経使うよな・・・。」
何事もなく虚を片付けて、流魂街の民も全員救出。
後片付けは三番隊が引き受けるということで、恋次は無事六番隊舎に戻ってきたのだった。


「・・・ん?」
報告をしようと隊主室の前まで来たとき、中から声が聞こえてきて恋次は足を止める。
『ふふ。白哉様ったら。お疲れなのですねぇ。』
楽しげな声が聞こえるが、その声に答える者はない。
恋次は気になって、小さく戸を開けて中を覗いた。


・・・!!!
その中の様子を見て、恋次は目を丸くする。
た、隊長が、漣の肩に凭れて眠っている、だと・・・?
見間違いかと一度目を逸らして深呼吸をする。
そして、再び中を覗き見た。
しかし、当然のことながら、先ほど見たものは、現実であるらしい。


『ふふ。白哉様。そろそろ副隊長が帰ってくる頃ですよ。』
漣が小さな声で楽しげに言うが、隊長の呼吸は深い。
『・・・きれいな黒髪。大きな手。私の、救い主。愛しております、白哉様。』
彼女は楽しげに隊長の手を握りしめる。


「・・・私も、愛している。」
静かな声が返ってきて、彼女は驚いたようだった。
『びゃ、白哉様!?起きて・・・?』
「今起きた。・・・愛の告白なら、私が起きているときにしろ。」
『そ、それは・・・。』
「それは?」


『・・・それは、お恥ずかしいので、ご勘弁を。』
顔を赤くしながら言った漣に、隊長はふ、と、笑ったようだった。
・・・隊長が笑った?
恋次は唖然とするが、白哉から霊圧を飛ばされていることに気が付いて、何も見なかったことにした。


早々に退散しないと命があぶねぇ・・・。
恋次はそう思って、踵を返す。
「しかしまぁ、あの隊長があんなに穏やかな表情をするわけか。漣ってすげぇな。」
歩を進めながら小さくつぶやく。


あの隊長が何故漣を選ぶのか。
その疑問は一生解りそうにはないが、二人の間に流れる穏やかな空気が、互いに大切に思い合っていることを証明していた。
俺が心配する必要なんてないんだな。
恋次は内心で呟いて、隊士たちに暫く隊主室には近付かないよう言い含めたのだった。



2016.03.16
恋次さんの考察。
お互いにお互いの前でしか見せない顔があるものです。
他人から見てどうか、というよりも、自分たちがどうなのか、の方が重要な気がします。

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