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■ 遠い君D

「・・・と、いう訳で、死神は均衡者といわれるのだ。」
退屈な講義に、ぼんやりと外を眺めていた咲夜だったが、がらり、と扉が開かれる音がしてそちらを見る。
堂々と教室に入ってくる二人に、教師は呆れ顔だ。


「・・・遅刻の理由くらい述べたらどうだ、浮竹十四郎、京楽春水。」
「今日はね、山じいに呼ばれていたんだ。ね、浮竹?」
「そうなんです。突然呼ばれたものですから、先生への連絡が出来なくて・・・申し訳ありません。以後気を付けます。」


「そうそう。だから、苦情を言うなら山じいに言ってね。」
教師へ頭を下げる十四郎と、さらりと無茶なことを言って自分の席に向かう京楽春水。
これには十四郎も呆れ顔なのだが、京楽春水は気にした風もなく着席する。
その態度はどうかと思うぞ、とか言いながら自分の席に着くあたり、十四郎も十分強者なのだが。


「・・・全く。元柳斎先生の教え子でなければ、お前たちなどこの手で引っぱたいてやるものを。」
「暴力、駄目、絶対。」
青筋を立てた教師を揶揄う京楽に、隣の十四郎が溜め息を吐く。


「貴様・・・。」
「まぁいいじゃないの。僕も浮竹も、欠点なんか取らないからさ。大目に見てよ。」
「おい、京楽。あんまり煽るな・・・。」
「・・・・・・京楽春水。貴様に特別課題を申し付ける!!本日放課後、六回生の演習に参加せよ!!」


・・・やっぱりこうなるのか。
堪忍袋の緒が切れた教師を見て、咲夜は内心で呟く。
はいはい、なんて適当に頷きを返す京楽春水は、やはり大物だ。
もっとも、彼がそんな態度をとるのは、実技に於いて(もしかすると座学に於いても)六回生に引けを取らないからなのだが。


「・・・京楽。俺はお前の思考が読めて怖いぞ。」
「あはは。流石浮竹。ま、こっちは任せてよ。」
「あぁ。六回生相手に簡単に伸されるなよ、京楽。」
「当然じゃない。山じいの拳骨が飛んでくるなんて、嫌だもの。」


「・・・お前ら、また何か頼まれてきたな?」
教師の言葉に二人は苦笑する。
「そうなんだよねぇ。ま、兄弟子として見逃してよ、先生。」
「俺からもお願いします。理由は後でお話しますので。」


「ふん。全く、気に食わん弟弟子たちだ。」
ぶつぶつと文句を言いながら教師は授業を再開する。
十四郎をそれとなく見つめれば、その口元が緩く弧を描いていて。
何かを企んでいるようなその様子に、咲夜は首を傾げるのだった。


「・・・破道の三十一、赤火砲!!」
六回生が放った鬼道を、京楽春水は易々と斬魄刀で弾く。
まだまだ余力があるであろう彼に対して、相手は息を切らせていた。
六回生の演習の中に放り込まれて尚、彼の実力は他を卓越しているらしい。


「・・・真面目にやってるな。おーい、京楽!勝ち抜けば俺たちへの課題は暫くなしだそうだぞ。頑張ってくれ!」
「流石浮竹!交渉上手だねぇ。」
「まぁな。お前は背後に気を付けろよ。」


ぶん、と京楽春水に斬魄刀を振り下ろしたのは、次の相手らしい。
見れば、いつの間にか先ほどまで戦っていた六回生は気絶しているようだ。
それなのに突如現れた十四郎と普通に会話をしているあたり、やはり普通ではない。
私なんか、十四郎が隣に来たことに心臓が止まるかと思ったのに。


「おっと。全く、背後から狙うなんて、死神の鑑だねぇ。」
動揺した様子もなく軽々と刃をすり抜けた男は、いつの間にか相手の背後に回っていて。
「でもね、自分より速い相手には、前から仕掛けようが後ろから仕掛けようが、結果に変わりはないんだよ。相手が油断をしていない限りはね。」


とん、と柄で首を叩かれて、六回生は崩れ落ちる。
その鮮やかさに目を奪われたのは私だけではないはずだ。
流石に未来の隊長候補と言われるだけのことはある。
もしかすると統学院の卒業生として初めての隊長になるのは彼なのかもしれない、なんて。


「さて、あと一人、かな。」
あと一人。
残っているのは、お兄様だけ。
でもきっと、京楽春水の実力は、お兄様のそれを上回っている。


正直勝ち負けはどうでもいいけれど、その後のことを考えると京楽春水には負けてもらわなければならない。
貴族の次男坊で家を継ぐことも出来ない京楽春水を、お兄様は見下している。
見下している相手に負けるようなことがあれば、お兄様は彼を排除しようとするだろう。


「準備運動は済んだかい、京楽春水。」
笑みを浮かべるお兄様の瞳は、不穏な気配を孕んでいる。
「まぁね。やっぱり、最後の相手は漣家の次期当主かぁ。どうぞお手柔らかに。」
「こちらこそ、お手柔らかに頼むよ。」


キン、と刃の交わる音がする。
徐に斬魄刀を鞘から抜いたお兄様が早速切りかかり、それを京楽春水が受け止めたのだ。
片手で簡単に止めた姿を見て、見物人の中から感嘆とも恐れともとれるざわめきが沸き上がった。



2017.10.15
Eに続きます。


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