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■ 遠い君B

きゃあ、と黄色い歓声が上がったかと思えば、女子生徒たちの視線の先に居るのは漣怜司その人で。
彼を囲む友人たちは、どれも皆上流貴族の子弟たちで。
その集団に申し訳なさそうに着いていく一人の女生徒に向けられるのは、羨望か、恋情か、はたまた嫉妬か。


学院に入学してから数か月。
そろそろ見慣れてきた光景ではあるが、彼女の心情を思うと心が重くなる。
養子、という危うい立場を彼女はよく理解しているのだ。
理解しすぎているほどに。


「・・・本当は、もっと屈託なく笑う奴なのに。」
誰に聞かせるでもなく呟いて、浮竹は彼女から視線を外す。
品の良い振る舞いも、嘘の微笑みも、浮竹から見れば、咲夜が危ない綱渡りをさせられているようで、遣る瀬無い。


それにしても、と浮竹は怜司をちらりと見る。
この数か月、それとなく彼を観察していた浮竹は、以前の京楽の言葉に納得した。
複雑が一周回って単純に見えるだけ、という京楽の言葉は間違いではないらしい。
全てにおいて完璧と称される彼は、咲夜に対してだけ、少し違う顔を見せる。


あれは、愛情というよりは、束縛や執着といった類の感情に近い。
まるで咲夜が自分以外を見るのを許さないような、咲夜に他人が近づくのを嫌がるような、そんな素振りが時折見られる。
もっとも、人望の厚い彼のことだから、それすらも妹想いの良い兄、として受け取られるのだが。


「・・・はぁ。俺は一体、何をやっているのだか。」
そんな分析をしてどうなる。
今の俺が咲夜をあの場所から連れ出すことなど、出来はしないのに。
当然、ずっとこのままでいようとは思っていないが。


「力をつけるしか、ないんだろうな・・・。」
身体はともかく、精神的な強さを。
そして、出来ることなら、上流貴族と対等に渡り合える地位を。
そのすべてを手に入れることが出来る道は、今のところたった一つ。


「・・・あ、居たいた。おーい、浮竹ぇ!」
京楽の声に思考を中断する。
「どうした?」
「山じいから呼び出し!」


「・・・お前、また何かやらかしたのか?」
「違うよ!?僕ってばそんなに信用ない!?」
「冗談だ。・・・それで、何でまた呼び出しなんだ?」
問えば、京楽は解らないという風に肩をすくめる。


「さぁね。それも、目立たないように死覇装を着て来いってさ。」
「護廷隊への呼び出しなのか?」
「うん。珍しいよねぇ。山じい、そういうけじめはしっかりしているのに。いつもなら、院生がうろつくな、って僕らを叱るのに。」


「・・・厄介事な気がするのは、俺だけか?」
「あはは。大丈夫さ。僕もそう思う。」
「だよなぁ・・・。」
「ま、行くしかないでしょ。行っても行かなくても怖いなら、行ったほうがいい。今回はそんな気がする。」


「お前のそういう直感は当たるからなぁ・・・。」
呆れたように言いながら、浮竹は京楽と共に駆けだす。
「兄さんの死覇装を借りるから、一度京楽家に寄るよ。」
「あぁ。」


また二人で、どこかへ行くのかな・・・。
駆けだした浮竹たちを視界の端に捉えた咲夜は内心で呟く。
彼らはああして、時々姿を消す。
噂では、山本元柳斎から特別指導を受けているのではないか、という話だ。


『・・・いいなぁ・・・。』
良くも悪くも目立つ彼らは、いつも周りに人が居て。
彼らの内なる力、ともいうべき何かが、彼らを輝かせる。
その輝きが、自分の穢れを自覚させて、何だか切なかった。



2017.10.15
Cに続きます。


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