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■ 熱を孕む夏

彼の家で過ごす久しぶりの非番。
貴方は真夏の日差しを避けて、柱に背中を預ける。
開け放たれた窓からぬるい風が部屋の中を通り抜けた。


家でゆっくりしようということになって、二人で本を読み始めたのは一刻程前。
私はそろそろ飽きてきたのだが、彼はそうでもないらしい。
毎日続く暑さと、死神の激務に体が疲れ切っているはずなのに、イヅルは休日を無駄に過ごすことはしないのだ。


・・・でも、もう少し構ってくれてもいいのに。
そんなことを思うのは、贅沢だろうか。
彼が休日を一緒に過ごす相手として私を選んでくれたのはすごく嬉しい。
けれど、本に彼を奪われている気がして、何だか悔しいのも事実で。


独り占めしたい、なんて、一体私は、いつからこんなに独占欲が強くなったのか・・・。
内心苦笑しながらも、そっと彼の傍に近寄って、ごろりと横になる。
彼の膝を枕にして。
今や慣れたその感触を堪能していると、くすり、と彼が小さく笑った。


「もう飽きたのかい?」
イヅルは悪戯に言いながら本を閉じる。
それと同時に見えて来た彼の青い瞳はこちらに向けられていて。
頷きを返せば、まるで猫を構うように、その手が私の頭を撫でた。


「何処か出かけようか?」
彼の言葉に行きたい場所が思い浮かばないわけではなかったけれど、何処に行くかということよりも、彼と一緒に居ることが重要で。
それに、家の外に出ると、副隊長である彼はなんだかんだで私一人のものではなくなってしまう訳で。


『・・・此処がいい。』
そう呟いて彼に身を委ねれば、イヅルは瞳を緩める。
「こんな場所で良ければ、いくらでも。何なら、ここを君の家にしてもいいよ?」
悪戯な、でもどこか本気めいた言葉に、目を丸くする。


「・・・なんて、ね。少し、恥ずかしいことを言ってしまったかな。」
口元を掌で隠した彼は、照れているらしい。
そんな姿を見せられては、こちらまで照れてしまう。
顔が熱いのは夏の暑さのせいだ、と誰に対してか解らない言い訳が頭の中に浮かぶ。


『・・・イヅルが、そうしたいなら、別に、いいよ・・・?』
小さな声は、彼の耳に届いたらしい。
ぴた、と私の頭を撫でていた彼の手が止まって、一瞬の後に深い溜め息が聞こえてきた。
恐る恐る彼を見上げれば、彼もまたこちらを見ていて、視線が交わる。


「咲夜のそういうところ、狡いよね・・・。人の気も知らないで。」
赤みを帯びた顔に、熱っぽい瞳。
『イヅル・・・?』
そんなイヅルを見つめていると、そんなに見つめるなとばかりに、目を塞がれた。


「・・・このままじゃ格好悪いから後で仕切り直す。でも・・・。」
『わぁ!?』
ふわりと抱き上げられて目を丸くしていると、立ち上がった彼はそのまま寝室のほうへと足を進める。


「言葉にするのは君に存分に触れてから。」
『ちょ、イヅル!?』
「僕を煽った君が悪い。」
『まだ、昼間・・・ん!?』


抗議の声は、彼の唇にかき消されてしまった。
彼の熱に煽られるように、私の熱も上がって。
久しぶりに与えられる熱にくらくらとしながら、彼に身を委ねた。
その先で与えられる彼の言葉に、是と答えるのはもう少し後のこと。



2017.08.14
実は久しぶりの咲夜さんとの時間にずっとソワソワしていたイヅルさん。
彼は照れ顔がすごく似合うと思うのは、私だけではないはず。


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