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■ 繋がる心

「・・・何処か、行きたい場所はあるか、咲夜。」
修練場を出て暫くすると、白哉様が不意にそう問うてきた。
このまま邸に帰ってお説教をされるのだと思っていたけれど、違うのかしら?
そんなことを思って首を傾げていると、白哉様はちらりとこちらを見る。


「無いのか?」
『いや、えぇと・・・このまま邸に帰るのではないのですか?』
「お前のせいで半分ほど潰れたが、元々お前と過ごすために取った非番だ。邸に戻りたいというのならば、それで構わぬが。」


『良いのですか・・・?』
「何がだ。」
『その、先ほど、白哉様は、邸に帰ったら覚えておけ、と・・・。』
伺うように見上げれば、白哉様はふ、と目を細める。


「あれだけ言って理解できぬ咲夜ではあるまい。それとも、あの程度の説教では足らぬのか?」
『いえ、あの、お説教は、充分です・・・。白哉様にご心配をおかけしたことも、反省しております・・・。』
「ならば、好きな場所に連れて行ってやる。」


どうしてこの方は、こんなにも機嫌がいいのかしら・・・?
さっきは私のことを莫迦者、と何度も言っていたのに。
修練場を出てからも私の手を握ったままで、その手が離される気配もない。
一体、この短時間で、白哉様の心境に変化を与えたものは何なのか。
頭を捻ってみるも、何も思いつかない。


『あの、白哉様?』
「何だ。」
『随分とご機嫌がよろしいようですが・・・一体、何が?』
恐る恐る問えば、白哉様は小さく笑う。


「お前が、私の手を取ったからな。この手を取ったからには、お前はもう、正式に私の婚約者故、私の妻になる覚悟をしておくことだな。」
その言葉と同時に、するり、と指が絡められる。
これではまるで恋人のようではないか、と思って、いや、そうではない、と頭を振る。


『・・・正式に、とは、一体どういうことなのです?まさか、これまでは仮初の婚約者だったと・・・?』
「お前にその気がなかったからな。」
『・・・・・・今も、その気がないと言ったら、どうなるのです?』


「そうだな・・・まだそのようなことを言うのなら、あの男の元に戻してやろう。」
意地の悪い視線。
それなのに、離されることのない手。
その手に安心してしまっている自分。


『・・・やっぱり白哉様は、意地が悪いわ。そんなことを言われては、私は貴方の手を離すことなど出来ないもの。』
「ならば、私の妻になるしかあるまい。」
『呆れた人。その傲慢さは一体誰に似たのかしら。正式な婚約者に対してもうちょっと言葉があるでしょう。』


「何だ。愛の囁きでも欲しいのか?」
『そ、そういうことではありません!』
「素直になった方が身のためだぞ。」
『な、なんですか、それは・・・きゃあ!?』


急に足を止めた白哉様に手を引っ張られて、彼の胸の中に飛び込む。
抗議をしようと顔を上げれば、目の前に白哉様の顔があって。
その近さと、先ほどとは打って変わって真剣な瞳に息を呑む。
その瞳に吸い込まれてしまいそうで、ふるり、と小さく震えた。


「・・・私と、結婚しろ。私はお前が欲しくなった。お前の心も、体も。全て。」
どくん、と心臓が大きく跳ねる。
こんなの反則だ、と私の中のどこか冷静な部分が呟いた。
一気に顔が赤くなったのが解って、思わず白哉様から顔を逸らす。


「愛いな。耳まで赤くなっているぞ。」
ちゅ、と耳元で聞こえると同時に感じる温かな何か。
驚いて白哉様を見れば、ぼやけるほど近い場所にある、白哉様の顔。
あっという間に唇を掠め取られて、ただ茫然とするしかなかった。


『・・・・・・び、白哉様の、馬鹿!!!』
叫び声をあげてどうにか距離を取ろうとするも、白哉様は未だ近い距離のまま。
護廷十三隊の隊長を務めるほどの男に、力で敵うはずもない。
混乱しすぎて涙まで出てきて、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。


『・・・う、な、なんで、びゃくやさま、は、いまだ、ひさなさまを、みているはず、なのに。わたしなど、ただのそうだんあいて、くらいにしか、おもっていないとばかり・・・。』
「お前にそう思わせていたのだ、莫迦者。そうでなければ、お前は私を警戒していたことだろう。」


『そうだと、しても、いったい、いつから・・・。』
「さぁな。・・・泣くほど嫌か?」
『い、いや、そういう、わけでは・・・。』
「ならば問題あるまい。大人しく私の妻になれ。」


涙を拭う指先は、酷く優しい。
私を見つめる瞳は、どこか甘い。
その瞳に映る自分の顔に、これまで気付かなかった感情が溢れ出る。
あぁ、私は、いつの間にか・・・。


『・・・す、き。』
呟いた言葉に目を丸くした白哉様だったけれど、彼はすぐに目で笑う。
「この私がそれを知らぬはずがなかろう。」
そういって微笑んだ白哉様は、再び私の唇を奪って、満足そうな顔をしたのだった。



2017.07.24
このシリーズはこれが最後となります。
白哉さんがいつ咲夜さんを好きになったのか、というのは、ご自由にご想像ください。
きっとこの後は二人でどこかにお出かけしたのでしょうね。


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