Short
■ 勿忘草A

手遅れだった・・・。
その言葉と感情の抜け落ちた表情。
そして、血に汚れた隊長羽織。
卯ノ花は、そんな白哉の姿を見て、悟る。


咲夜が、あれの傍に居る。
行ってやってくれ。
・・・あの男は、咲夜にすら、隠していたのだな。
それがあれの望みならば、真実は伏せておけ。


白哉はそれだけ言って四番隊舎を出て行った。
卯ノ花はすぐに勇音に留守を頼むと伝えて、咲夜の霊圧を探る。
容易く見つかったそれは、不安定なもので。
駆け付けた先に見たのは、兄の亡骸を抱えて涙を流す少女。


「咲夜、さん・・・?」
声を掛ければ、ゆらり、と視線をこちらに向けられる。
その瞳を見た瞬間に、どきり、と心臓が一つ跳ねた。
・・・誰かを恨んで、復讐を覚悟している瞳。
一体、誰を恨んでいるというのか。


『卯ノ花、隊長・・・。私は、兄を斬ったあの人を、許せない・・・。』
その言葉と白哉の言葉を繋げれば、状況は容易く理解できた。
虚に毒されていたとはいえ、体は彼女の兄の体で。
その体に刃を向けていた朽木隊長を、彼女は見たのだ。
兄の親友が、彼女が慕っている男が、大切な兄に手を掛ける瞬間を。


そして、朽木隊長は、彼女にこんな瞳を向けられた・・・。
だからあれ程、閉じていたのだ。
いつかのように、心を閉じることで、何とか己を保っているのだ。
おそらく、涙を流すことすらできずに。


・・・貴方は酷い人です。
咲夜に抱きしめられている男を見つめながら、卯ノ花は内心で呟く。
己の親友と妹に、こんな試練を与えて死ぬなんて。
それなのに、貴方の死に顔はなんて安らかなのでしょう。


「・・・・・・帰りましょう、咲夜さん。兄君も一緒に。」
掛けられる言葉は、それしかなかった。
彼女の兄と、朽木隊長がそう望むならば、真実を伝えるのは、私ではない。
胸に痛みを感じながらも、卯ノ花は己の斬魄刀を取り出して、咲夜とともにそっと男の亡骸を乗せる。


ぼろぼろの体は、朽木隊長が加減して戦った証拠だろう。
本来ならば一瞬で決着がつく力の差がある。
それが出来なかったのは、己の友を傷つけたくはなかったから。
朽木隊長は、何とか友を救えないかと、懸命に抗ったのだ。


・・・けれど、今の彼女には、それに気付く余裕がない。
今それを指摘しても、彼女はきっとそれを受け入れないだろう。
彼女の恋心は、憎しみへと変わってしまったから。
二人の行く末を思うと、卯ノ花の心は重くなるのだった。



2017.08.07
Bに続きます。


[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -