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■ 遭遇

『・・・あの、白哉様?』
「何だ?」
『・・・何故、私たちは、隊長様方に、囲まれているのでしょう?』
「この状況で、私がそれを知るはずがなかろう。」


せっかく勇気を出して白哉様に問うたのに、あっさりと言い捨てられて、恨めし気に白哉様を見上げる。
面倒そうにしていることを除けば、白哉様はいつも通りで。
恐る恐る視線を前に戻せば、目の前には三、五、八、十三番隊の隊長様方が興味津々な様子で、私たちを眺めているのだった。


・・・逃げたい。
私はただ、白哉様にお弁当を届けにやって来ただけなのに。
もはや恒例となりつつある昼食会という名の作戦会議を終えて、その帰り道、白哉様に送ってもらっていただけなのに。
その途中で何故か揃って歩いている四人の隊長に遭遇したのだった。


「なんや、六番隊長さん、えらい可愛い子連れてはると思うとったら。」
「噂の婚約者だったとはね。」
「朽木隊長ったら水臭いよねぇ。こんなに可愛い子、僕らに紹介してくれないなんてさ。」
「おい、京楽。不躾に見過ぎだぞ・・・。」


上から、市丸隊長、藍染隊長、京楽隊長に浮竹隊長。
そして隣には、白哉様。
これだけ長身の男性陣に囲まれていると、何だか自分がすごく小さくなった気分になる。
白哉様より大きな殿方は初めて見たわ、なんて、軽く現実逃避をした。
ふいに市丸隊長の手がこちらに伸びてきて、反射的にその手を避けてしまう。


「・・・あら?逃げられてしもた。」
ほとんど無意識とはいえ、隊長に対して失礼なことをしてしまった、と咄嗟に謝罪を口にする。
『申し訳、ありません・・・。その、少し、驚いてしまいまして・・・。』


「こらこら。彼女は上流貴族のお姫様なのだから、そう簡単に触れていい相手じゃないよ。」
「そうそう。ま、僕は別だけどね。」
市丸隊長を窘めた藍染隊長と、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる京楽隊長。
ぱし、とその手を叩き落とした手が二つ。


「・・・痛いじゃないの、二人とも。」
「・・・。」
「やめてやれ、京楽。」
無言で京楽隊長を見つめる白哉様と、呆れ顔の浮竹隊長。


『あ、あの、大丈夫ですか・・・?』
赤くなっている京楽隊長の手の甲を見る限り、白哉様と浮竹隊長は容赦なく彼の手を叩き落としたらしい。
申し訳なくなって見上げれば、にこりと笑みを向けられる。


「優しいねぇ、咲夜ちゃんは。・・・どこかの心の狭い男とは違って。」
ぼそりと付け足された言葉に、隣の婚約者の気配が剣呑になる。
「まぁそう揶揄ってやるなよ、京楽。・・・悪いな、咲夜姫。此奴はこんなだが、悪い奴ではないんだ。許してやってくれ。」


『えぇと、その、私は、平気ですわ・・・ね、白哉様?』
おずおずと白哉様の袖をつかんで、白哉様を見上げる。
ちらりと視線を向けた白哉様は、盛大に溜息を吐いてから、目の前に居る隊長たちを見つめる。


「・・・隊長が四人も揃って何をしている。」
「明日、大規模な合同演習があるだろう。その打ち合わせの帰りだ。」
「全くさぁ、演習の指揮官なんて若い隊長に任せればいいのに。面倒だよねぇ。」
「僕かてやりたくありませんわ。なんで六番隊長さんが外れて僕なんやろか・・・。」
「隊長がそういうことを言うものじゃないよ。」


『合同演習、とは、いったい何を・・・?』
「明日の合同演習は、演習と言いつつも隊長たちが隊士に始解を見せるのが主な内容でね。隊士たちに威厳を見せろ、というのが本当の目的かな。」
藍染隊長が穏やかに説明してくれて、なるほど、と頷きを返す。


『・・・ねぇ、白哉様。』
白哉様をちらりと見上げれば、こちらを見ていた彼と目が合って。
「・・・ならぬぞ。」
見に行きたい、という前に、却下されてしまう。


『まだ何も言っておりません。』
「何を言うか解った上で却下しているのだ。」
『少しくらい聞いてくださってもよろしいでしょう。』
「いつもそなたの言葉には耳を傾けてやっている。」


『それは白哉様が不器用すぎるからですわ。』
「それとこれとは別の話だ。」
『・・・じゃあ、こっそり見に行きます。』
「こっそり見に行けばいいというものではない。」


じい、と二人で見つめ合う。
ルキア様がいらっしゃらないと私は暇なのです。
この間そなたのために本を買ってやっただろう。
そんなのとっくに読み終わりましたわ。
ならば次の本を買ってやる。
目だけで会話をしていると、くすくすと笑う声が聞こえてくる。


「なんや、仲良しやねぇ。」
「見せつけてくれちゃって。僕も可愛い婚約者が欲しいなぁ。」
「お前たち、朽木の前でもそうなのか?」
「あの朽木隊長も、婚約者には厳しく出来ないらしい。」
楽しげな四人の隊長に、白哉様はふいと視線を逸らす。


「・・・帰るぞ、咲夜。」
『え?ですが、送っていただくのは、すぐそこまでと・・・。』
「気が変わった。」
『わ!?あの、白哉様!?』
私の腕をつかんだ白哉様は、そのまま歩き出した。


『・・・隊長様方!また今度、死神のお話をお聞かせくださると嬉しゅうございます!』
半ば引き摺られながら隊長たちを振り向けば、早くしろ、と再び腕を引っ張られる。
『白哉様!解りました!解りましたから、そんなに引っ張らないでくださいまし!隊長様方へのご挨拶がまだにございましょう!』


「そんなことをする必要はない。あれらと関わると碌なことがないぞ。」
『白哉様だって大概同類ですわよ・・・?』
「五月蠅い。・・・始解が見たいのならば、後で私が見せてやる。だから明日は行くな。」
『本当ですか!?』
思わぬ言葉に瞳を輝かせれば、白哉様は頷いてくれた。


『ついでに鬼道も教えてくださいます?』
「・・・時間があればな。」
『本当は霊術院に行きたいくらいなのですけれど・・・。』
「私が行かせると思うか?」
『そうですわよね・・・。では、白哉様のご指導をお待ちしております。』


「・・・思った以上に、仲良し?」
二人を見送りながら、京楽は呟く。
「はは。朽木が咲夜姫に懐くのは、何となく分かるな。」
「政略的な婚約だと聞いていたけれど、まんざらでもないようだ。」


「咲夜ちゃん、六番隊長さんに触れられるんは、平気なんやねぇ。」
「彼女のあの避け方は普通ではないけれど・・・。」
「どこぞのバカ息子とその取り巻きに苛められていたみたいだよ?」
「なるほど。だから白哉は、明日は来るなと言ったのか。そのバカ息子は確か八番隊だったな。」


「・・・お二人さん、それ、六番隊長さんから聞きはったんですか?」
「まさか。朽木隊長がそんなことまで話してくれる訳ないじゃない。」
「少し調べただけさ。」
「そうお節介やから六番隊長さんに煙たがられるんと違います?怖いお人やわぁ、二人とも。」


「はは。まぁ、いいじゃないの。・・・ところで、今から一杯どうよ?」
「おい、京楽・・・。」
「八番隊長さんの奢りなら行かせてもらいますわ。」
「はは。僕も。」


「お前らなぁ・・・。まだ昼過ぎだぞ・・・。」
「何さ?浮竹は行かないのかい?」
「・・・解ったよ。だが、一杯だけだからな。」
「流石浮竹。さて、それじゃ、行きましょうかねぇ。」


鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌な京楽を先頭に、四人で連れ立って歩を進める。
咲夜を送り届けて戻って来た白哉が、昼間から飲み始めている隊長四人を見つけて心の底から呆れ、彼らの副官たちに連絡を入れるのは、半刻ほど後のことである。



2017.05.02
隊長たちと遭遇した咲夜さんでした。
四人の隊長の悪ノリが書いていて楽しかった・・・。


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