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■ 反抗少女 後編

『・・・すまない、十四郎。』
咲夜と浮竹に追いついた京楽は、二人の様子を見て、己の身を木の陰に隠す。
膝を抱えて地面に座り込む咲夜と背中を合わせて浮竹が座っているのだった。
「構わんさ。いつものことだろう。」
『父は私が気に入らないのだ。だから、私と関わる君に辛く当たる。』
「漣の当主が気に入らないのは俺自身だ。」


『なぁ、十四郎。私たち、統学院に入学して何日経った?』
「まだ十日ほどだが・・・それがどうした?」
『・・・ほら、な。やはり、父は私が気に入らないのだ。その気になればその日のうちに私を探し出せる。ということはつまり、この十日程、父は私を探していなかったということだろう。父にとって私は、その程度の娘なのだ。』


遠くを見つめる咲夜の言葉を、浮竹は否定しなかった。
いや、否定できないのかな・・・。
二人は昔から交流があると言っていた。
きっと何度も今日のようなことがあったはずなのだ。


上流貴族の姫と、下級貴族の、それも病弱な男。
・・・僕が浮竹と友人でいることだって良く思わぬ人たちが居るのだから、男と女である彼らの関係を周りが警戒するのは当たり前かもしれない。
難儀なことだ、と京楽は内心で溜め息をついた。


『でもな、十四郎。私も酷い娘なのだ。死神を忌み嫌う父への当てつけで、死神になろうというのだから。』
「それは違うさ。入学式の日、お前は何も知らぬままでいることはしたくないと言った。あれは嘘ではなかっただろう。だから俺は、お前のことを漣家に報告しなかった。」


『確かに、あの日の言葉は嘘ではない。でも・・・でもやはり、私は・・・。』
「ご当主の兄君を斬ったのは死神だったが、あれは、あの方が自ら望んだことだ。虚の毒に侵され、その身を虚に操られる前に、自分を斬れと言ったんだ。」
『その原因を作ったのは、私だ。私が無知であったから、伯父は死んだのだ。だからもう二度と、己の無知で誰かを失いたくはない。』


「・・・あまり一人で気負うな。父君のことも、伯父君のことも。お前は一人じゃないだろう。少なくとも俺は、お前の味方だ。それに俺は、お前は死神に向いていると思う。お前が自分で見出した道は、間違ってなどいない。自信を持て。」
『・・・そうか。ありがとう、十四郎。でも、暫く背中を貸してくれ。』
「あぁ。」


「・・・出て来いよ、京楽。」
暫くして、背中を預けたまま眠ってしまった咲夜を確認した浮竹は、静かに言った。
京楽は、やはり気付かれていたか、と苦笑を漏らしながら彼女の眠りを妨げないように静かに二人に近づく。


「・・・漣のご当主は?」
「さぁね。京楽家の名前を出して、そのまま教室を出て来たから。」
「悪いな、京楽。お前の立場もあるのに。」
「このくらい平気だよ。元々あまりよく思われていないからね。ほら、京楽家は死神の家系だから。」


「そうか。・・・あのご当主も、昔はあそこまでではなかったんだが。」
「何かのきっかけで、良いほうにも悪いほうにも転がるものさ。」
「そうだな。・・・早く、死神になりたいな、京楽。」
どこか遠くを見つめる友人に、京楽は苦笑を漏らす。


「どうやら君は、彼女のことが余程大切らしい。」
「・・・悪いか?」
「悪くなんかないさ。何なら二人で隊長でも目指すかい?」
「お前の口からそんな言葉を聞く日が来るとはな。」


「僕だって遊びでこんなところまで来ている訳じゃないよ?山じいに強制的に入学させられたのは事実だけどさ。」
拗ねて見せれば白い男は朗らかに笑う。
その拍子に未だ眠る彼女の体が揺らいで、地面に転がりそうになったのを浮竹は慌てて受け止めた。


「・・・ったく、俺から触れるのは遠慮していたんだがな。仕方がない。このまま寮に送り届けるか。」
深い溜め息を吐きながら咲夜を抱え上げた浮竹に、京楽はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。


「浮竹ってば、男だねぇ。」
「馬鹿言うなよ。」
「またまた。咲夜ちゃん、美人だし、器量も悪くないし、惚れるのも解るよ。」
揶揄うように言えば、黙れとばかりにじろりと睨まれるのだった。



2017.04.25
家出少女の続編でした。
咲夜さんの家出にはいろいろと理由があったのです。
またもや中途半端なので、続編があると思います。


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