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■ 青色吐息

「行ってらっしゃいませ、白哉兄様。」
「あぁ。」


「白哉兄様。ただいま帰りました。」
「あぁ。」


「お帰りなさいませ、白哉兄様。」
「・・・あぁ。」


白哉様とルキア様の様子を窺って数日。
そろそろ白哉様の言葉足らずに喝を入れなければならないと思い始めている今日この頃。
・・・白哉様、返事しかしていないではありませんか。
ルキア様も挨拶しかしていないけれども。
不器用なこの兄妹が本物の兄妹になる日はやってくるのかしら・・・?
咲夜は内心で溜め息をつく。


『・・・お仕事中失礼いたします。』
白哉とルキアの様子に、作戦会議が必要だ、と咲夜が訪れたのは、六番隊舎。
ルキアへの芸事の指導に時間を取られているために、邸では白哉との時間が取れない。
そのため、お弁当を届けるという名目で六番隊舎を訪れたのだった。


「・・・咲夜?」
執務室で隊士たちに何か指示を出していたらしい白哉様がこちらに気づいて目を丸くする。
「何故ここへ・・・。」


『お弁当を届けに参りました。それから少々お話がございます。白哉様は大変お忙しい身でいらっしゃいますから、こちらから出向かせて頂きました。昼食を取る時間くらいはございますでしょう?食べながらでよろしいですから、お話、聞いてくださいますよね?』


にっこり。
微笑みを向ければ、どこか警戒したような視線が向けられる。
どうやら何の話か自覚はあるみたいだわ。
そうでなければ身構えたりしないもの。


「・・・解った。少し早いが、私は休憩に入る。お前たちも昼の鐘が鳴り次第、昼休憩に入れ。」
白哉様はそう言うと、着いてくるように私に視線で示して、歩を進め始める。
隊士たちの不思議そうな視線が集まっていることに気づいて、内心苦笑した。


「・・・突然来るな。心臓に悪い。」
隊主室に入って二人きりになると、白哉様はため息をつく。
『清家にはお伝えして参りましたわ。』
「そういうことを言っているのではない・・・。」


『話があるとお伝えして逃げられては困りますので。』
「・・・逃げはしない。」
『そうでしたか。では、次からはもっと目立たない方法で二人になる機会を用意させて頂きます。』
「そうしてくれ。」


『承知致しました。では、早速ですが、言いたいことを言わせて頂きますね。』
「あぁ・・・。」
『まず一つ目。白哉様、あぁ、は一番短い返事にございましょう。ルキア様が勇気を振り絞って白哉様にご挨拶をしているのですから、もう少し良い反応をして頂かないと。』


「そんなことは解っている。」
解っていても難しいのだ、とでも言いたげな視線に拗ねたような口調。
少し可愛らしいとは思うけれど、今後を思えば甘やかすことは出来ない。
ルキア様が相手でなければ世間話くらいは誰とでも出来るのに、何故あれ程硬くなってしまうのか。


『あら、そうでしたか。では、二つ目。白哉様、一つお聞きしたいのですが、白哉様からルキア様にご挨拶をしたことは?』
「・・・。」
返ってきた沈黙に思わずため息をつく。


『たまには白哉様のほうからご挨拶をしてください。ルキア様は一生懸命白哉様にご挨拶をしておられますわ。』
「・・・善処する。」


『会話の内容が思い浮かばないのならば、ルキア様に近況をお聞きになるとよろしいでしょう。今日は何をした、だとか、私との稽古はどうだ、とか。そんなに難しく考えることはございません。いちいち緊張していては、それが相手に伝わって相手も緊張してしまいますわ。』
呆れながら言えば、確かにそうだと白哉様は少し力を抜いた。


『そうやって私の言葉を聞き入れてくださるのは、白哉様の良い所です。力む必要も、構える必要もございません。こうやって私とお話しするように、ルキア様とお話しなされば良いのです。』
微笑むと、じっと見つめられて、首を傾げる。


『如何されました?』
「いや、何故そなたは、私との婚約を受け入れたのだろうか、と。他に婚約の予定がなかった訳でもあるまい。」
不思議そうな顔で問われて、思わず苦笑した。


『姫というものは、普通、当主の決定には逆らえないものです。その相手が朽木家当主ならば尚更逆らえません。』
私の言葉を聞いた白哉様は、複雑そうな顔をする。
彼の口から謝罪が出てくる前に、先に口を開く。


『白哉様がそのようなお顔をなさる必要はございません。この婚約は私自身が納得した婚約ですので。実を言えば、朽木家からのお話は本当に有難いものでした。』
「貴族の地位を持たない資産家の跡取りのことか。」
『父は白哉様にお話ししたのですね・・・。』


「昔、漣家が財政難のおりに支援を受けて、それを理由にそなたを寄越せと言ってきていたようだな。可哀そうな思いをさせたと、漣殿は言っていた。その跡取り息子に相当苛められたとか。」
『正確にはその跡取り息子とその取り巻きに、ですわ。見目が良くて財力もあれば、寄ってくる女性は腐るほどおりますもの。』


「そうか。苦労したのだな、そなたも。」
そう言いながらゆっくりと伸びてきた手が、ぽん、と私の頭をひと撫でする。
目を丸くしていれば、微かな笑みを向けられた。
思わぬ温もりにじわりと涙が込み上げそうになって、慌てて口を開く。


『・・・そ、そういうことは、ルキア様にされたらよろしいのです!私にやってどうするのですか!わ、私はもう帰らせて頂きます!ちゃんと、食事を口になさってくださいね!本日も無事にお仕事を終えることを願って、お帰りをお待ちしております!』
半ばやけになりながら言い放って、隊主室を飛び出す。
扉が閉まる瞬間、小さな笑い声が聞こえた気がした。


何なのよ、あの人。
心臓に悪いのは、こっちの方よ。
あれが出来るのならば、私の助言なんかいらないじゃない。
ルキア様にもああして寄り添えばいいのに。


『何だか、負けた気分だわ・・・。』
いつもは私が白哉様を励ます側なのに。
何より困るのは、あれでその気がないということよね。
天然って恐ろしいのね・・・。


『・・・ふふ。困った人。』
表情が乏しくて、不器用で、言葉も少なくて。
でも、憎めないのよねぇ。
くすくすと笑いながら、咲夜は隊舎を出ていく。
その楽しげな姿を、六番隊の隊士たちは不思議そうに見送るのだった。



2017.03.13
『物申す』の続編が見たいとのリクエストがあったので。
勝ち気な咲夜さんに押されてばかりはいない白哉さんでした。
時々続編を書くかもしれません。


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