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■ 馬鹿な子ほど可愛い

『朽木隊長!今日こそ勝ちます!』
執務室に駆け込んできた彼女は、そういって私に挑戦状を叩きつけた。
『今日のお題は、激辛!というわけで、じゃじゃん!』
彼女は得意げに鍋を取り出す。
『・・・私特製、激辛キムチ鍋です!!』
そんな彼女に、内心で頭を抱えた。


彼女は漣咲夜。
我が六番隊の第三席である。
容姿端麗で、実力も申し分ない。
しかし、彼女の行動は時折読めぬのだった。


そもそも何故、私は毎日のように挑戦状を叩きつけられねばならぬのか。
事の発端は、一週間前のこと。
彼女が朽木白哉を負かせて見せる、と、松本乱菊に言い切ったことが始まりらしい。
・・・まったく、松本乱菊が絡むと面倒事しか起きない。


それから毎日、得意の白打で勝って見せるだとか(当然私の圧勝だった)、字が上手いのは自分の方だとか(卯ノ花隊長に判定をお願いしたところ、私が勝った)、お茶を点てることなら自信があるだとか(総隊長は私の方が上だと判断した)、何かと私に挑んでくるのだ。


何を言っても聞かぬので(ここ数日で理解した)、適当に相手をして彼女に仕事をさせようとキムチ鍋を黙々と食す。
程よい辛味で、旨味もある。
どうやら彼女は料理も出来るらしい。
・・・美味だ。


『・・・うぅ、かりゃい。なんれ、たいちょは、へいき、なんれすか・・・。』
開始五分。
彼女はすでに涙目になっている。
その上、唇が赤く腫れていた。
「・・・私はこのくらいがちょうどいい。」
何となく彼女の唇から目を逸らして、彼女の問いに答える。


これでも私は彼女が可愛くて仕方がないのだ。
仕事は出来るが普段はどこか抜けている。
気付けば目を離せなくなって、いつの間にか彼女に心惹かれているのである。
それ故、小言を言いつつも、彼女に付き合ってしまうのだ。


『うぅ・・・。たいちょ、もう、こうさん、れす。』
耐えきれなくなったのか、彼女は箸を置いて自分で用意してきたらしい水を飲む。
『くちが、いひゃい。たいちょ、は、へいき、れすか?』
自分から挑んできたくせに、私の心配をするらしい。
そんな彼女がおかしくて、愛しい。


「平気だ。・・・漣は、料理も出来るのだな。美味であった。」
彼女の分まで胃袋に収めてから箸を置く。
『そりぇは、よかった、れす。たいちょ、に、たべて、いただく、ので、がんばり、ました。』
「そうか。」


しかし、何故彼女は私の得意分野で私に挑戦してくるのだろうか。
隊長が三席に白打で負けるわけなどない。
書道も茶道も朽木家で教育を受けた私に敵うはずもない。
そして、私は辛党で、彼女はどちらかといえば甘党である。


・・・それでは私に勝てるはずがない。
内心で呟きながらも、彼女に教えることはしない。
我ながら狡いとは思うが、それで明日も彼女が私に顔を見せてくれるのならば、私は何度でも彼女の挑戦を受けて立とう。


「・・・漣。これをやる。」
隣で未だ辛さと戦っている彼女を見て、仕方なく草鹿対策として持ち歩いている金平糖を差し出す。
それを見た彼女の瞳が輝いた。
「少しはましになろう。」
『ありがとうございます!たいちょ、だいすき。』


無邪気に言われて眩暈がする。
私の手から金平糖を取ろうとする彼女の手を掴んで、引き寄せた。
『ふぉ!?』
阿呆な声が聞こえるが、気にするまい。


近くなった彼女の顔に内心で小さく笑って、金平糖の包みを広げる。
そしてそれを己の口に放り込んだ。
甘さが口の中に広がって、小さく顔を顰める。
『な!?たいちょ、それ、わたしの・・・!!』


「欲しいか?」
泣きそうになった彼女の顎をとらえて、小さく問う。
『え?まだあるの、れすか?それなら、ほしいれす!』
この体勢でも彼女は何の危機感も抱かないらしい。
恥ずかしがる様子もなく瞳を輝かせた彼女に、内心でため息を吐く。
しかし、これも悪くない。


「欲しいならくれてやるが?」
『はや、はやく、くだしゃい!わたし、くちが、いたくて・・・。』
困ったようにこちらを見て私に懇願する。
「そうか。では、くれてやる。」
そういうや否や彼女の唇に口付けた。


かろん。
そんな軽い音を立てて、金平糖が彼女の口に渡った。
それを確認して唇を離すと、彼女は口を開いたまま目を丸くしている。
その様子に内心で笑って、席を立つ。


「唇の腫れが引くまでここに居ろ。・・・美味であったぞ、咲夜。」
それだけ言い残して執務室を出る。
数歩歩いたところで、彼女の叫び声が聞こえた気がした。


これで私を男として意識すればいい。
彼女はすでに私の掌の中。



2016.03.13
咲夜さんの唇を勝手に奪う白哉さんでした。


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