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■ 邂逅B

彼女が、泣いている・・・。
総隊長の言葉を聞いた彼女の瞳から、次から次へと涙が零れ落ちている。
彼女が涙を流す姿を見るのは初めてだった。
それは私だけではないらしく、昔から彼女を知る浮竹や京楽、総隊長を始めとした隊長たちもまた目を丸くしている。


「咲夜サン・・・?」
浦原に名を呼ばれて、彼女ははっとしたように両手で顔を覆う。
「そんなに、辛かったんスか?この百年。」
『違う・・・。違うんだ、これは・・・。私には、涙を流す、資格など・・・。』


「・・・咲夜サン。いい加減、面倒ッスよ。情緒不安定もいい加減にしてください。全く、貴女はどうしてそう拗れるんスかねぇ。」
面倒そうに溜め息を吐いた浦原の視線が、こちらに向けられる。
真剣な瞳は、全てを知っていることを物語っていた。


「合わせる顔がない。涙を流す資格がない。・・・と、いうことですが、如何いたしましょ、朽木サン?」
口調は軽いが、その視線は鋭い。
意地を張るのはやめろと、お前から折れろと、その瞳は言っている。


咲夜は、ずっと私の味方でいると言ったのに。
(その言葉を信じきれなかったのは、私だ。)


味方になると言ったその口で、敵として現れ、私に刃を向けた。
(刃を向けて拒絶したのは、私も同じだ。)


先に消えたのは、咲夜の方だ。
(だが、私は探さなかった。)


もう二度と会わないと言ったのは、彼女だ。
(それを言わせたのは、私だ。)


別れを告げて去ったのは、咲夜だった。
(私は、拒絶されることが怖くて追いかけなかった。)


この百年、苦悩と共にあったのは、私の方だ。
(だが、彼女は泣いている。伝令部の司令官として常に冷静であった彼女が。これほど人が居る前で。)


彼女を責める言葉が浮かんでは、彼女を擁護する言葉がそれを打ち消す。
・・・これでは、お互い様だ。
この百年、辛かったのは、私だけではない。
合わせる顔がないのも、泣く資格がないのも、私の方だ。


だが、会いたかった。
信じたかった。
彼女の言葉を。
忘れることなど、出来なかった。
出来るわけがなかった。


「沈黙は、無しッスよん。」
答えない私に焦れたのか、浦原が呟くように言う。
その瞳を見返して、溜め息を吐いた。
ここで折れなければ、私は、一生後悔する。
もう後悔はしたくない。


「・・・そのようなことをいう馬鹿者は、私が預かる。」
「そうですか。そりゃあ、助かります。この人、居候のくせに、毎日縁側でぼんやりしてるんスよ?店番すらも任せられないんで、ただの穀潰しなんですよねぇ。いくら最近店が繁盛していると言っても、そんな人を雇う余裕はないんスよ。それを預かるなんて、流石朽木家ッスねぇ。」


「一人二人養ったところで揺らぐ朽木家ではない。たとえそれがただの穀潰しだとしてもな。」
咲夜に視線を向ければ、それが解ったのか、びくりと肩を震わせる。
暫く無言で彼女を見つめるが、一向にこちらを見ようとしない。
その強情さに、再び溜め息を吐く。


「・・・総隊長。」
「なんじゃ?」
「我が六番隊は、第十二席が空席となっている。この漣咲夜を、十二席に据えたいのだが如何であろうか。」
私の言葉に、彼女は息を呑む。


「ふむ・・・。」
即答しないのは考えているふり。
己の髭を撫でる手が態とらしい。
その上、その瞳には老獪な光が灯っている。


「いいんじゃないの、山じい。彼女は即戦力だし。ねぇ、浮竹?」
「そうだな。今の彼女は恐らく上位席官クラスだが、隊規を無視して疑いのある者の逃走を手助けしたことを考えると、十二席というのも妥当だ。」
「私も、良いと思いますよ。」
総隊長の意を汲んだように、京楽、浮竹、卯ノ花隊長が口を開いた。


「オレらも、反対する理由はないで。」
「そうだね。僕たちは彼女に助けられた方だし。」
「何より、俺たち自身が復帰しているからな。」
続いて口を開いたのは、平子隊長に鳳橋隊長、六車隊長。


「六番隊の十二席が誰になろうと興味はないネ。」
「そんなもん、どうでもいい。」
「二番隊の厳しい規律すら破る者を引き受けるなど、酔狂なことだな、朽木。」
「隊長格ならともかく、他隊の席官の人選に口出すほど暇じゃねぇ。」
「同感だ。」


「異議はないようじゃ。後は本人次第じゃが・・・。」
総隊長の視線が彼女に向けられて、彼女は漸くこちらを見た。
久しぶりに見たその瞳は、涙で揺らいでいる。
じっとこちらを見つめるばかりで答えようとしない彼女に焦れて、彼女の方へと歩を進める。



2017.02.08
Cに続きます。


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