Short
■ 邂逅A

『・・・離せ、喜助!私は、あの場所には行けない。私などが参加していい場所ではないだろう!』
「そんなことないッスよ?咲夜サンはアタシの大切な助手ッスもん。」
『助手などになった覚えはない!いいから離せ!!』
「はいはーい。大人しくしてくださいね、咲夜サン。」


こっそりと協力者を募って、こっそりと霊圧を集めている最中、ひらひらと飛んできたのは、地獄蝶。
その発信元は山本元柳斎その人で。
その内容は、隊主会への呼び出しで。


・・・全力で、逃げ出さなければ。
隊主会とは、隊長の集まりだ。
その隊長の中には、彼がいるのだ。
そもそも元死神とはいえ、一席官程度の私が、隊主会の席に参加していいはずがない。


それなのに、私の腕を掴んで離さない喜助。
無駄に堂々としているあたり、黒崎一護への力の譲渡に関しては勝算があるのだろう。
いや、それはそれとして。
何故私まで連れて行くのだ、この男は。


こちらは全力で振りほどこうとしているのに、そこは流石に元十二番隊長。
加えて男女の力の差。
どちらが有利かは明白だった。
それでも、逃げ出さなければ・・・。
彼に合わせる顔など、ないのだから。


「・・・さぁて、着きましたよん。潔く覚悟を決めるッスよ、咲夜サン。」
目の前には一番隊舎、隊主会議場への扉。
思わず探った霊圧の中には、彼の霊圧があって、とっさに霊圧を消す。
それが今の彼にとっては無意味な行動であることは承知していても、霊圧を消さずにはいられなかった。


「入れ、浦原喜助。」
重厚な声が聞こえてきて、それでも隣の男の手は私の腕をしっかりと掴んでいて。
もう逃げられないのだと悟る。
せめて彼が私の顔を見なくてもいいようにと、顔を俯かせた。


ぎ、と重い音が聞こえて、扉が開かれたのが解る。
その先にはやはり彼の気配があって。
気配だけでも解ってしまうほど重症である自分に内心苦笑した。
他の隊長副隊長たちと一緒に、彼の視線が向けられていることを感じる。


「皆さん、お久しぶりッスねぇ。あ、こちらはアタシの助手の咲夜サンッス。まぁ、皆さんご存知でしょうから、それ以上の紹介は不要でしょう。彼女の同席も許して貰いたいんスけど・・・。」
喜助は窺うように総隊長に視線を向ける。


「漣咲夜、か・・・。」
呟かれた己の名前に、片膝をついて頭を下げる。
この時になって漸く喜助が私の腕を離した。
本当は、声を出すつもりなどなかったのだが、仕方がない。
ここで挨拶をしないわけにはいかなかった。


『・・・大変ご無沙汰しております、総隊長。』
「元二番隊第五席、兼、隠密機動第五分隊伝令部指揮官。死神の名門、上流貴族漣家随一の俊足を誇る実力者。・・・漸く顔を見せたか。」
『ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。長きにわたりご心痛をおかけいたしましたこと、重ねてお詫び申し上げます。』


「良い。顔を上げよ。」
言われて顔を上げれば、そこには百年前と変わらぬ総隊長の顔。
しかしその顔は、少しだけ、力を抜いている。
藍染の件で、総隊長の荷が少しだけ軽くなったのかもしれない。


「変わらぬようじゃのう。」
『総隊長こそ、お変わりないようで何よりにございます。』
「今の儂にそんなことを言うとは。嫌味にしか聞こえぬ。」
『片腕を失った程度で、何をおっしゃるのか。腕が一本と足が二本あれば、貴方は十二分に総隊長の務めを果たすことが出来ましょう。』


「その口も、相変わらずのようじゃのう。まぁ良い。本題に入るとしよう。そなたの同席も許す。」
『ご厚意、感謝いたします。』
私の言葉に頷いてから、総隊長は喜助に視線を向ける。


「浦原喜助。」
「はい。」
「この伝令書簡についての説明を求める。」
「はい。この伝令書簡は・・・。」


喜助は伝令書簡が出回った経緯と、その意図、そのために用意した刀の詳細な説明を始める。
黒崎一護への死神の力の譲渡。
その内容は普通の護廷十三隊であれば、否、と一蹴される内容だった。
一通り説明を終えたところで、事情は相分かった、と総隊長が頷く。


彼が否と言えば、否。
彼が是と言えば、是。
総隊長の次の言葉に、皆が息を呑む。
喜助もまた、じっと次の言葉を待っていた。


「先刻、涅、浮竹両隊長より、初代死神代行が黒崎一護に接触したとの報告を受けた。」
「初代死神代行・・・銀城空吾か!」
「黒崎一護が、ようやくエサとしての役割を果たしたということだネ。」
張りつめた空気が、皮膚に刺さるようだった。


「銀城空吾が接触してきた以上、最早一刻も無駄には出来まい・・・その刀を持って寄れ!浦原喜助!」
その言葉に目を見開いたのは、卯ノ花隊長だった。
「総隊長、それでは・・・!」


「・・・形はどうあれ、我らは黒崎一護に救われた。今度はその黒崎一護を、我らが救う番じゃ。縦え仕来りに背こうと、ここで恩義を踏み躙れば、護挺十三隊永代の恥となろう。」
そこで言葉を切った総隊長は、一歩踏み出した。


「総隊長命令である!護廷十三隊全隊長・副隊長は、全てこの刀に霊圧を込めよ!」
この痺れるような声を聞くのも、随分久しぶりで。
その内容が痺れるような内容であって、何故だか泣きそうになる。
長い百年を思い出して。


「・・・儂の命を待たずして、既に多くの死神が霊圧を込めたとの報告を受けておるが・・・此度に限り、罪には問うまい。よいか、浦原喜助!必ずや、黒崎一護に死神の力を取り戻させよ!」
その言葉は、喜助への確かな信頼で。


「はい、必ず・・・!」
堪えるような喜助の声に、深く頭を下げた喜助の姿に、思わず涙が零れ落ちた。
本当に、長い、百年だった。
私も、喜助も、夜一さんも、平子さんたちも。


地位も、名誉も、死神も、仲間も、家族も手放した。
逃げ、隠れ、安息の日々などある訳もなかった。
自分の中から感情が一つずつ零れ落ちていくような感覚がずっとあった。
無力な自分を何度も悔いた。


辛くて、苦しかったけれど。
でも、間違ってはいなかった。
総隊長の言葉が、全て浄化してくれた。
この百年の苦悩と不名誉を思うと、涙が溢れて止まらないのだった。



2017.02.08
未だ白哉さんの出番なし・・・。
Bに続きます。


[ prev / next ]
top
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -