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■ 邂逅@

「咲夜サン、ご飯が出来ましたよーん。」
縁側で黄昏ていると、喜助の暢気な声が聞こえてきた。
それとほぼ同時に、障子の影から喜助の顔がひょこりと出てくる。
今日は珍しく帽子を被っていないらしい。
彼の金髪が顕わになっていた。


『喜助。』
「毎日毎日、飽きないッスねぇ。」
喜助はそんなことを言いながら近づいて来て、隣にすとんと腰を下ろす。
『まぁな。』


どことなく気怠い雰囲気なのは、研究中だからだろうか。
藍染との決着がついても尚、この男の研究に対する意欲は衰えないらしい。
いや、この男が研究を続けているということは、この先も戦いが絶えない、ということか。


それは、尸魂界に居る死神たちもまた、戦いに出てくるということで。
その中には当然彼も居ることだろう。
ルキアとの擦れ違いは解消されたらしく、ルキアは嬉しげに彼のことを語る。
彼女の口から語られる彼は、最後に会った時とは印象がまるで違う。


・・・彼は幸せになったのだ。
私が居ない場所で。
それで、いい。
その姿を見られないことは、残念だけれど。


「・・・まだ、会わないんスか?」
思考を読み取られたような問いに苦笑を漏らす。
『もう会わないさ。顔など見たくはなかった、と言われてしまったからな。』
「それは、顔を合わせたのが、あの時、あのタイミングだったからじゃないんスか?」


『たられば、に意味がない事は、君もよく知っているだろう。』
「それはそうなんスけどね・・・。」
『あの時しかなかったんだ。あのタイミングでしか、あれの心を動かすことが出来る可能性はなかった。そして私は、あれの心を動かすことが出来なかった・・・。それだけのことだ。』


思い出すのは、彼の呻くような声と、苦しげな瞳。
私があんな顔をさせたのだ。
余計に彼を苦しめた。
だから、もう、二度と会わないと決めた。
彼もまた、私に会いたいなどとは思わないだろう。


「・・・馬鹿ッスねぇ。」
しみじみと言われて、笑うしかなかった。
『はは。そうだな。私は自分で思う以上に無力だったらしい。それにも気付かなかったとは、大馬鹿者だ。』


「アタシなら、絶対に手を離さない。苦しいのが自分だけだなんて思わない。自分だけが苦しいと思い込んで、相手を拒絶して。名前を口にするくせに、探そうともしない。探して、見つけて、会いに行った時、相手に拒絶されたらと思うと怖いから。全部自己完結じゃないッスか。・・・あんな声で名前を呼ぶくせに。」
喜助の少し悔しげな声に、首を傾げる。


『一体、誰の話だ?私の話ではないよな・・・?』
「どっかの大馬鹿者の話ッス。どっかの大貴族の当主で、どっかの隊長サンなんスけど。大切な人を拒絶して、大層後悔している。失うことを知っているのに、自分から失うことを選択するなんて、大馬鹿者じゃないスか。アタシだったら、そんな無意味な選択はしません。」


『喜助・・・?』
珍しく腹を立てているらしい隣の男は、らしくない盛大なため息をついてこちらを見る。
「・・・なんて、アタシが人に言えたことじゃあ、ないですね。黒崎サンに多大なる犠牲を払わせて、尚且つこれから先もその犠牲を払わせようとしているんスから。」


『・・・あれが、出来たのか?』
「えぇ。あとは霊圧を込めてそれを黒崎サンに渡すだけです。先ほど朽木サンが来て、死神たちに協力を仰ぐと言って帰っていきました。今頃、瀞霊廷では伝令神機があちらこちらで鳴っていることでしょう。総隊長の耳にそれが届くのも時間の問題だ。近いうちに尸魂界に赴くことになります。貴女にも、手伝ってもらいますよ、咲夜サン。」


どうやら私に拒否権はないらしい。
緩い口調とは裏腹に、こちらを見つめる視線は有無を言わせない。
相手の方が格上で、その相手に居候をさせてもらっている身では、抗うことは出来なさそうだった。


『・・・・・・解った。』
渋々頷けば、喜助は苦笑を漏らす。
「気が乗らない、って感じッスねぇ。まぁでも、さっきアタシが言ったことは本当ッス。アタシがこの目で見ましたから。貴女の名前を呼ぶ彼は、誰よりも貴女を待っている。意固地にならずに、気の向くままに動いてみることも、必要なことなんじゃないッスかねぇ。」


『今の私にその権利はないさ。』
「相変わらず、自分のことは後回しなんスね。もう少し夜一サンを見習った方がいいんじゃないッスか?そんなんじゃ、幸せになれませんよ?」
『私の幸せなど、些細なことだ。あれが幸せであることの方が重要だ。』


「卑屈ッスねぇ。ま、それが良い所でもあるんスけど。・・・さて、まずは腹ごしらえッスかねぇ。今日の夕飯はちょっと奮発して焼肉ッスよ、咲夜サン。皆さんお待ちかねッス。これ以上待たせると食いっぱぐれますよ。」
『あはは。それは困るな。』


全く、情けない。
喜助の背中を追いかけながら、内心で呟く。
後押しされても、私は彼に会いに行くことすら出来ないのだから。
もし、喜助の話が本当ならば。
それならば、私は、どこへでも飛んでいくのに。
私の全てを賭けるのに。


だが、私は、もう・・・。
彼のあんな表情は見たくない。
あんな声は聞きたくない。
味方でいると言ったくせに、私は、自分が傷付くのが怖いのだ。
本当に情けない・・・。
そんな自分自身に失望しそうだった。



2017.02.08
一体、誰夢なのか・・・。
Aに続きます。


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