蒼の瞳、紅の瞳
■ 40.幸せ者


兄様の機嫌がいい。
ものすごく。
ルキアは帰ってきた白哉を見てそう思った。
それから兄様がお茶を点てるというのでルキアも一緒に呼ばれたのだ。


兄様の点てたお茶を頂いた後、夕餉もともに済ませ、今は縁側で月見酒を楽しんでいる。
咲夜殿が居るからだろうか?
咲夜と白哉の会話に混ざりつつ、ルキアはそう考えながら白哉の様子を観察していた。
いつもならこんなに兄様を見ることなどできないのだが。


『そうだ!ルキア、チャッピーのぬいぐるみだ!!さわり心地がすごくいいんだ。君にあげよう。』
兄様を観察していると、咲夜殿が思い出したようにそう言った。
「咲夜殿・・・!これはっ!!」
差し出されたぬいぐるみは私がずっといつかは買おうと考えていたぬいぐるみである。


「いただいてもいいのですか!?」
『もちろん。ルキアのために買ってきたんだ。受け取ってくれ。日頃の礼も兼ねてな。私が入院している間も様子を見に来てくれていたし。おかげで私は退屈しなかった。』
咲夜殿はそういって笑う。


「ありがとうございます!」
そういってぬいぐるみを抱きしめていると、咲夜殿に抱き着かれた。
兄様の視線をものすごく感じるのは気のせいだろうか。
なぜ、見られているのだ?


『ルキア、可愛い!!白哉、私にルキアをくれ。』
「やらぬ。」
即答する兄様。
ただ、ずっと私に視線を向けているのは何故なのだ?


『白哉のけち。ねぇ、ルキア。咲夜姉さまと呼んでみないか?一度だけでもいいんだが。もちろんずっとそう呼んでもいいぞ?』
咲夜殿が何やら期待したような目で見つめてくる。
「咲夜、姉さま?うわぁ!?」
そう呼んだと同時にまた抱き着かれた。


『かわいい!!欲しい!!ねぇ白哉、ルキアを私に頂戴?』
「やらぬと言っているであろう。・・・まぁ、いずれルキアはそなたの妹になるがな。」
『なんでだよー。白哉が独り占めしているなんてずるい!!』
「独り占めはしておらぬだろう・・・。」


・・・ん?
んんん!?
何かとんでもないことを聞いたような・・・。
咲夜姉さまには後半にポツリと小さく言った兄様の言葉は聞こえなかったらしい。
いずれ私が妹になる?
つまり、どういうことだ?


・・・もしや!!
そう思って兄様に目を向けると、兄様は頷いた。
なるほど。
先ほどからの視線は咲夜姉さまが私に抱き着いているからだったのか。


「・・・緋真は許してくれるだろうか?」
兄様が私の方を向いてそう問う。
『え?突然何?緋真さんがどうしたの?』
「えぇ。緋真さまは兄様の幸せを望んでおられるかと。私もそうなれば大変うれしく思います。」
話に付いていけていない咲夜をよそに、二人は会話を進める。
「そうか。」
白哉はルキアの答えを聞くと、微笑んだ。


・・・微笑、んだ?
あの兄様が?
私に向かって?
朽木家に引き取られてから、兄様の笑顔など見たことがなかった。
最近雰囲気が幾分柔らかくなったとはいえ、笑顔を見ることなど、叶わぬと思って居た。
やっと、笑ってくださった。


「っはい!」
ルキアは涙が溢れてきて、震える声でそういうのが精いっぱいだった。
『え?ルキア?どうしたんだい?何故泣いているんだ?どこか痛むのか?』
咲夜姉さまはそういうと、私の頭を撫でた。


「っいいえ。私は嬉しいのです。私は本当に幸せ者です。」
そういって泣いてしまった私に兄様の柔らかな視線が注がれているのが感じられた。



2016.03.23 秘密編 完
〜復帰編に続く〜
長かった・・・。
でもまだ続きます。

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