蒼の瞳、紅の瞳
■ 39.大切な存在


『・・・なぁ、白哉。』
「なんだ?」
白哉は視線を書類に落としたまま答える。
『この一週間、疑問に思って居たことがあるのだ。』


「なんだ?」
『私が目を覚ましたあの日、何故君は私の病室にいたんだ?』
咲夜の問いに白哉の動きが一瞬止まった。
「・・・偶然だ。」
そう素っ気なく答えた白哉を見て、咲夜は続けた。


『もしかして、私を心配してずっとそばに居てくれたのか?』
咲夜は首を傾げる。
「違う。私が病室に行ったら、兄が目を覚ました。それだけのことだ。」
『ごめんな。』
「なぜ謝る。」
『心配をかけた。』


「違うと言っているであろう。」
『じゃあ、ありがとう。』
「・・・礼などいらぬ。もう帰るぞ。」



白哉は内心穏やかではなかった。
全くこやつは何も解っておらぬ。
私が、なぜ病室に居たかなど解りきっているではないか。
それを私に「心配してくれたのか?」だと?


当然であろう。
また居なくなるのではないかと、また私は失うのではないかと思ったのだ。
そう思ったら、居てもたってもいられなかった。
彼女が生きていることを確認しなければ安心できなかったのだ。


だから、毎日休憩のたびに病室に通っていたのだ。
もちろん、卯ノ花には口止めをしてある。
手を握り、霊圧を込めてみたりもした。
早く、彼女の瞳を見たかった。
声を聴きたかった。
いつものように、悪戯な笑みを浮かべて欲しかった。


『白哉?早く帰ろう。ついでにご飯もご馳走してくれよ。朽木家の料理は最高だからな。』
そう言って前を歩く彼女。
いつの間にか彼女から遅れていたらしい。


・・・いつからだろうか。
ずっと、彼女は私の前を歩いていたはずだ。
それもずっと前を。
私はその背中を追いかけていたのだ。
小さなころから、ずっと。
私を泣かせてくれたあの日から。


強く、優しく、美しい人。
朗らかに笑い、そこに居るだけで安心する存在。
私が唯一、弱音を吐くことができる存在。
私に泣いてもいいと言ってくれた存在。


だが、あの日意識を失い、四番隊へと運ばれた彼女は弱々しく、消えてしまいそうだった。
それが、ひどく怖かった。
恐ろしかった。
他の誰かを失いそうになった時よりも。
そう感じて、彼女がどれほど大切な存在だったのか、思い知らされた。


『白哉?さっきからどうした?考え事か?』
そう言われて、顔をあげると、目の前に彼女の姿があった。
「・・・いや、なんでもない。」
白哉は自分の心の変化に戸惑っていた。


・・・もう、誰かを愛することはないと思って居たのだがな。
いつの間にか、彼女を特別な目で見るようになっていたらしい。
『そうか?』
だが、今それを伝えても信じてもらえぬだろう。
白哉は彼女が戻ってきてからの自分の言動を振り返った。
そして内心で一つため息をつく。


・・・気長に待とう。
幸い、咲夜姉さまはこのようなことには疎い。
漣家に戻れば、縁談が舞い込むことだろうが当分心配することはないだろう。
じい様も納得した人物でなければ縁談は成立することはないだろうから。


もちろん私も、ただ見ているだけで満足などせぬ。
当主同士の婚約など、そうあることではないが、漣家には天音殿もいらっしゃる。
理由を話せば、彼女を当主にすることも諦めてくれることだろう。
じい様も天音殿も本当はそうなることを望んでいるようだしな。
早めに伝えておくとするか。


『白哉!!もう置いていくぞ!!聞いているのか!?』
「・・・あぁ。帰ろう。」
名を呼ばれて白哉は考えていることを表情に出すことなく、そう答えたのだった。
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