蒼の瞳、紅の瞳
■ 27.強いひと


次は十番隊。
冬獅郎と松本副隊長か。
咲夜は十番隊の隊主室に向かった。
『失礼するよ。冬獅郎、居るかい?』
隊主室の扉を開けて、咲夜はそう声をかけた。


「あら?咲夜さん・・・でしたっけ?隊長は日課のお昼寝中なんです。すみません。」
乱菊の言葉にソファに目を向けるとすやすやと眠る冬獅郎が居た。
『そうでしたか。松本副隊長、この間はありがとうございました。』
「そんな、あたしは当たり前のことをしただけです。」


『ありがとう。・・・松本副隊長。』
「なんです?」
『貴女に伝えたい言葉があります。といっても、私の言葉ではありません。ある人から預かってきた言葉です。聞いていただけますか?』


「それは誰の・・・?」
そう聞きつつも、乱菊は誰の言葉か解ってしまった。
『・・・市丸ギン。聞きますか?聞きたくなければ、私の心に留めておきます。』


聞きたい。
あんたは一体何を思って死んだの?
どうしてあんなに安らかな顔で逝ったの?
あたしをどう思っていたの?


「聞かせてください。」
『解りました。』
咲夜はそう言って乱菊の額に手をかざした。


(「乱菊。ご免な。泣かせて、ご免な。僕のせいやね。でも、僕は乱菊に笑っとってほしいんや。だから、笑っとってな。」)


優しく響く、ギンの声。
あたしはちゃんと大切にされていたのね。
だから、あたしはあんたのことが好きだったのよ。


「・・・伝えてくれて、ありがとうございます。」
彼女は涙を堪えてそう言った。
『いえ。私にはこれくらいのことしか出来ないのです。私は、彼を救えなかった。』
「いいえ。ギンは、貴女を信頼していたのですね・・・。だから、最期の言葉をあなたに託したんだわ。」


『そうだといいのですが。私が彼と話したのは一度きりでしたから。彼は・・・ギンの最期はどうだったのですか?』
「・・・穏やかな最期でした。安心したように眠るように息を引き取りました。」
『そうですか。』


「咲夜さんがそんな顔をする必要はありませんよ。さて、この話はもういいでしょう。聞けて良かったわ。」
乱菊はそう言って笑う。


『泣かないんですね。』
「当然よ。笑えと言うなら笑ってやるわ。あいつが羨ましく思うほどに笑って生きてやります。」
そう言い切った彼女がなんだか眩しかった。


強い人だ。
大切な人を失っても前を向いている。
私もこんな風に強くなれるだろうか。


「そうそう、あたしのことは乱菊って呼んでください。敬語もいりませんし。咲夜さんは元十番隊副隊長なんでしょう?」
『じゃあ、遠慮なく。乱菊も敬語なんかいらないよ。私は今、ただの隊士なのだから。』
「そう?じゃあ、そうするわ。お茶でも飲んで行って。隊長もそろそろ起きるだろうし。」
『あぁ。ありがとう。』
乱菊はそう言って給湯室に行った。
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