蒼の瞳、紅の瞳
■ 22.銀色の狡い人


さて、次こそ三番隊だ。
ちょうど昼休みになるな。
イヅルは今日、お弁当だろうか。
お弁当でなければ、食堂まで連れ出そう。
そして何かおごってあげよう。


『失礼するよ。』
咲夜はそう言って窓から執務室に侵入した。
「・・・え?咲夜さん!?」
イヅルは驚いて持っていた筆を落とした。
そして、ガタリと音を立てて立ち上がると咲夜の方へ駆け寄った。


『やぁ、イヅル。元気かい?』
「もう動いても大丈夫なんですか?」
『あぁ。さっき烈さんにお墨付きをもらって退院してきた。』
「そうですか。・・・よかった。」
ほっとした、顔。


『心配かけたな。それから、ありがとう。私に力を貸してくれて。』
「そんな・・・お礼を言われるほどのことじゃありませんよ。僕は僕のやるべきことをやっただけです。」
そういって笑うイヅル。


『そうか。・・・強くなったんだな。』
そう言って咲夜はイヅルの頭を撫でた。
「そうですよ。僕だってもう副隊長です。それなりに強くなったんですからね。と言ってもまだまだ咲夜さんには敵いそうにはありませんけど。」
『ふふふ。そうだな。』


そういえば、まだ彼の言葉をイヅルに伝えていなかったな。
『イヅル。』
「はい?」
『その、ギン、のことなんだが・・・。』
突然出された名前にイヅルは真剣な顔になった。


「市丸隊長が、どうかしましたか?」
『彼の言葉を預かっているのだ。・・・彼が死ぬ時、神鎗が私に伝えてきた。』
「そう、ですか・・・。」


『聞きたいか?』
「・・・。」
イヅルは沈黙する。
『聞きたくないのなら言わない。』
「・・・いえ、聞かせてください。」
イヅルは真っ直ぐな瞳を向けてそう言った。


『そうか。』
咲夜さんはそう言って、僕の額に手をかざした。
すると、静かに市丸隊長の声が聞こえてきた。


(「ご免な。イヅルは、僕みたいにならんように生き。」)


あぁ、本当にずるい人だ。
隊長は、そうやって僕を置いていく。
そのくせ、ふらりと僕の前に現れては、僕をかき乱す。
何も語ることなく、一人で逝ってしまわれた・・・。


「・・・ずるい人だ。」
『あぁ。そうだね。他人の心を見透かす癖に、自分の心を何一つ見せない。』
「僕を殺そうとしたのに、僕に生きろと言うなんて・・・。」
『ふふふ。彼の本心がどちらであるか、今の君ならわかるだろう?』
「・・・はい。ありがとうございます、咲夜さん。」


ギンの言葉を聞いても、イヅルは微笑んだ。
その瞳に寂しさが映っていたけれども。
ギン。
君って奴は本当に素直じゃない。
私も君と話がしてみたかった。


『・・・さて、イヅル、お昼は食べたかい?』
「いえ、これからです。今日はお弁当もないので・・・。」
『そうか。なら食堂まで行こう。今日は私のおごりだ。好きなものを食べるといい。』
「はい。ありがとうございます。」
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