蒼の瞳、紅の瞳
■ 18.俺の望み


『・・・信じ、ます。』
咲夜は鏡夜のその瞳をみて、そう答えていた。


「そうか。では、俺を受け入れろ。俺がお前の中に入り込み、そこから森羅を乗っ取る。お前は森羅の刀身で、俺ごと森羅を斬れ。」
鏡夜はそういうと形が崩れ始めた。
そして一つの塊になって行く。


次の瞬間。
『え・・・?』
その塊は胸から咲夜の中に入って行った。
それと同時に咲夜と森羅の一体化がほどけ、森羅の刀身が咲夜の手の中に現れた。
先ほどまで感じていた痛みもなくなっている。


自分に何が起こったのか解らずにいると突然森羅が苦しみだした。
「うっ、なんですの?いまさら、私を支配できると思って居るの?いや、いやよ。やめてぇ!!」
森羅の動きが完全に止まった。


「咲夜。早く、斬れ。お前なら、斬れるだろう。」
森羅の口から鏡夜の声が聞こえてきた。
姿が徐々に鏡夜のものへと変わってゆく。
「咲夜。俺を斬れ。そうすれば、森羅は失うが、暴走を止めることが出来る。」


『ち、ちうえ?』
咲夜のつぶやきを聞いて鏡夜は微笑んだ。
「そう、呼んでくれるのか。俺はお前に父親らしいことなど何もしてやれなかったのに。」
『父上はどうなるの?』
「さあな。だが、俺はもう亡霊のようなものだ。俺の体はもう朽ちている。これが、お前のためにできる最初で最後のこと。」


『父上!どうして?貴方は私を恨んでいたはずだ。』
「恨んでいた。だが、愛しくもあったのだ。・・・お前は、俺を恨んでいるのだろうな。」
鏡夜は自嘲した。


『いいえ!私は何も恨んでなどおりませぬ。真実を知った時から、私はずっと父上を探していたのです。私のせいで辛い思いをさせてしまったと。ずっとそう思って居たのです。・・・ごめんなさい、父上。私が、父上の幸せを奪ってしまった。私が生まれたせいで!!』


「そんなことはない。お前は優しい子だな。俺は、今、幸せだ。お前が俺の娘として生まれてきてくれたこと、誇りに思う。・・・くっ。咲夜、斬れ。俺が抑えていられるのはあと僅かだ。」
咲夜は首を横に振る。
その瞳からは、涙が溢れていた。


『いやです。父上。せっかく会えたのに。私は、貴方に殺されそうになったという事実を知っても貴方にずっと会いたかったのに。』
その言葉を聞いて鏡夜もまた涙を流す。
「これで、よいのだ。これが俺の最後にふさわしい。」
『そんな・・・。』


「さぁ、咲夜。俺を斬るんだ。急げ!お前は生きろ。こんなにお前を思って動いてくれる人たちが居るのだ。彼らはお前にとっても大切な仲間なのだろう?お前はそれを守れ。それが、俺の望みだ。」


その言葉を聞いて、咲夜は柄に力を込めた。
そして刃を向ける。
『うわぁぁぁ!』
咲夜は叫び声をあげながら、その刃を父に突き刺した。


ぱき、ん。
鏡夜に突き刺さった刃にひびが入る。
そして、粉々に砕け散った。
『さよなら。森羅。ごめんね。』
咲夜はそう呟いた。
支えを失った鏡夜の体が崩れ落ちる。


『父上!』
咲夜は叫ぶように名を呼んで、彼の体を支える。
「咲夜。すまなかった。」
『いいえ、父上。私こそ、父上を傷つけた。』
答えながら涙が零れ落ちた。


「いい、のだ。これで、死ねる。心残りなど、もう、ない。」
『父上!!』
「咲夜。お、れは、おまえを、あ、いして・・・。」
その言葉を最後に、さらさらと鏡夜の体は崩れていった。
そして、咲夜もまた意識を失ったのだった。
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