蒼の瞳、紅の瞳
■ 12.探し求めた人


どこだ。
どこに居る。
咲夜はあたりを見回した。
すると、結界の向こうに顔の見えない隊員の姿があった。


『そこか!!』
そういって、咲夜はそこに向かって鬼道を放った。
バリバリと京楽たちの張った結界が壊れる。


「うわぁ、ちょっと咲ちゃん!?結界壊さないでよ。結界張れっていったのは咲ちゃんじゃないの。それにそんな簡単に壊れる結界じゃないはずなんだけど!?」
遠くの方で京楽が何か言っているようだったが、咲夜には聞こえていなかった。
『こい!漣鏡夜!!』


咲夜がそういうと、シュルリと黒い影が進み出てきた。
そして、咲夜の前までやってくる。
その間に、京楽たちはまた結界を張りなおしていた。
『やっと、きたか。』
「久しいな。」


彼が声を出すと、今まで見えなかった顔が浮き出てきた。
冷たい、水底の澱のような気配。
暗い声。
青白い顔。
まるで死人のようだ。


『これはあなたの仕業か?』
「そうだとも、そうでないともいえるな。」
『どういう意味だ?』
「あれの原因は俺だが、俺が望んでやったわけではないのだよ。」
鏡夜は空のひび割れを見ながらそういった。


『・・・まさか、体内に虚を取り込んでいるのか?』
「そうだ。俺の体はもう限界を超えている。・・・戦うこともできぬ。浄化する力すら失った。だが、お前に伝えなければならないことがある。ずっと、どうすればうまく伝えられるのか、考えていたのだ。お前が俺の話を聞いて、それを信じてくれるかどうか。それが、ずっと解らなかった。」


相変わらず暗い声をしているが、何かを悔やんでいる様子だ。
私に伝えたいこととはなんだ。
私は何を知らないのだ?


『・・・私は、貴方を探していた。ずっと。』
「そうか。」
『あの日、何があったのだ?なぜ隊長は死んだのだ?』
「やはり、覚えていないか。」
『私を殺しに来た貴方を見たところまでは覚えている。だが、そのあと気が付いた時には貴方は居なかった。・・・隊長も死んでいた。』


「あの日、俺はお前を殺しに行ったのではない。」
『それを信じろというのか?生まれたばかりの私を殺そうとした人の言葉を?』
咲夜の声に棘が含まれる。
「そうだな。確かにあの時は、俺はお前を憎んだ。森羅を憎んだ。すべてのものを憎んでいた。」
鏡夜は過去を思い出しているのか、遠い目をしている。


「・・・だが、俺は知ったのだ。お前が生まれ、剣の巫女の力が徐々に俺から離れていくときに。お前が生まれるまで、森羅が剣の巫女を離れるのは、剣の巫女が死ぬ時だけだった。だから、誰も知らなかったのだ。歴代の剣の巫女たちは自らの命が尽きる瞬間にそれを悟ったのだろうな。だから、どの書物にもそのようなことは書かれていなかったのだ。」


『悟った?何をだ?』
「剣の巫女がなぜ存在するのか考えたことがあるか?」
『斬魄刀を鎮めるためだろう?』
「そうだ。だが、歴代の巫女たちは、誰も森羅を鎮めたことがないのだ。」


『鎮める?森羅を?』
「そうだ。漣家は巫女の家系だからな。その清浄さの一番近くにある森羅が穢れているなど、考えもしなかったのだろう。・・・我らが本当に鎮めるべきは森羅だったのに。」
悔しげな声。
その声は、真実を語っているようだった。
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