蒼の瞳、紅の瞳
■ 9.賭けの始まり


一週間後、白哉は舞手を引き受けたことを後悔していた。
失念していた。
これは巫女の舞なのだ。
衣装も女物ではないか。
・・・はぁ。
思わずため息が出る。


『どうしたんだい?ため息なんかついて。』
突然咲夜が現れた。
すでに純白の生地に金糸で刺繍の施された巫女の衣装を着ている。
「騙したな。」
白哉は咲夜を睨みつけるが、彼女は楽しげに笑うだけである。


『嫌だなぁ、騙してなんかいないよ。我が父も巫女の姿で舞っていたのだから。それに、頭巾をかぶれば顔は見えなくなるのだから大丈夫だよ。普通の巫女衣装と違って袴まで真っ白だしね。霊圧だって、私が空間を浄化してしまうから、誰も白哉が舞手をしているなんて気が付かないって。』
けろりとした顔をして彼女は言い放つ。


「なぜ私がこのようなことを・・・。」
『引き受けたのは君だろう。』
「こんなものを着るとは聞いていない。」
『君が聞かなかったからな。』
「・・・。」


爺様と天音殿があの時楽しそうだったのは、こういう訳か・・・。
『ほらほら、時間ないんだからうだうだ言ってないで早く着る!じゃないと君の過去の女装姿が瀞霊廷中に撒かれてしまうかもよ?』
そういう彼女の表情は、悪だくみをしている時の顔だ。


・・・本当にやりそうだ。
はぁ。
内心でため息をひとつ。
白哉はその言葉をきいて、素直にこの純白の女物の衣装を着ることにしたのだった。


咲夜は舞台袖から観客席を覗いた。
今居るのは八、十、十三番隊の隊長副隊長と、三、五、六、九の副隊長たち、烈さんと山じい、それにお爺様だけだ。
・・・お爺様は、完全に面白がって来たよなぁ。
まぁ、いつものことか。


叔母上は当主の挨拶があるから、私とともに舞台袖に居る。
だが、舞を始めれば、次第に人は集まってくるだろう。
斬魄刀たちが呼び寄せてくれるだろう。
これから舞う「剣の舞」は斬魄刀たちのためにあるのだから。
そこへ着替えた白哉が現れた。


『似合うじゃないか、白哉。』
「あら、本当にお似合いですこと。お美しいわ。」
「・・・解せぬ。」
不機嫌な顔だ。
『今さら文句を言うな。男らしくないぞ。ほら、そこに座って。君は髪が長いから髪をまとめて、頭巾を被せよう。』


そういうと、白哉は不満そうな顔をしつつも素直に椅子に座った。
彼の漆黒の艶のある髪に櫛を通す。
『相変わらず、綺麗な髪だな。・・・これでよし。できたよ。』
百余年前の白哉はこんな風に髪をまとめて修練に励んでいた。


「まぁ、昔を思い出しますわね。それに、こうしてみると貴方たちはよく似ているわ。」
叔母上は楽しそうだ。
白哉は鏡の中の自分を見て不満そうだが。
確かに私に似ているかもしれない。


「早く頭巾を被せろ。」
女物を着ている自分を見たくないらしい。
もう少し見ていてやろうかと思ったが、時間がない。
弾き手の準備も整ったようだ。
白哉に頭巾を被せて、私も頭巾を被る。


『さて、それでは行こうか。賭けに勝てるといいのだが。』
「負けたところで何も変わらぬ。」
『そうだな。・・・それでは叔母上、当主のご挨拶をよろしくお願いいたします。』
「えぇ。貴方たちの舞を楽しみにしていますよ。」
そう言って、叔母上は舞台に出て行った。
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