蒼の瞳、紅の瞳
■ 6.祖父


それから咲夜は数か月間父を探し続けた。
季節はもう夏にかわっている。
だが、見つからない。
咲夜は頭をひねらせていた。
どうしようかな。


・・・なんかもう面倒くさくなってきたぞ。
探すのやめようかな。
皆とまたこうして一緒に居られるわけだし。
いやでも、さっさと蹴りを付けてしまいたい。


・・・仕方がない。
誘き出すか。
この方法は目立つからやりたくなかったのだけれど。
それで出てこなかったら探すのはやめよう。
そのうち痺れを切らして私のもとに現れるだろうから。


『よし。じゃあ準備をしなくちゃね。』
一度漣家に戻ろう。
そういえば私、帰ってきてから一度も会いに行っていないんじゃないか?
姿を消している間は何度か顔を見せてはいたのだけれど。


叔母上はお元気だろうか。
何か手土産を持っていこう。
酒饅頭でいいか。
叔母上はお酒が大好きだし。


今、私は漣家の門の前に立っている。
しかし、中からは覚えのある霊圧が感じられる。
・・・そうだった。
この人にも挨拶していなかった。
やっぱり今日はやめようかな・・・。


忘れていたんだ。
白哉のことが片付いたから。
「あら?咲夜様?お帰りなさいませ。」
あぁ、使用人に見つかってしまった。
「いかがなさいました?」
門の前で佇んでいる私を見て不思議そうに尋ねる。


『いや・・・。うん。ちょっとね。あの、もしかしてお爺様が居るなんてこと・・・あるのかな?』
「はい。銀嶺様なら先ほどこちらにいらっしゃいましたが。」
あぁ、やっぱり。
嫌味が飛んできそうだなぁ。


『そうか・・・ふぅ。』
咲夜は深呼吸をひとつする。
『仕方がないか。・・・今日は叔母上に顔を見せに来たのだ。』
「そうでしたか。ではご案内いたします。」
そう言った使用人に大人しくついていくことにする。
渡殿を通って、当主の間へ案内される。


「ご当主様、お客様でございます。」
使用人が声をかけると、
「お入りなさい。」
という叔母上の声がした。
『失礼いたします。』

スコーン!!
使用人に襖を開けられて、中に足を踏み入れた瞬間、小気味良い音を立てて咲夜の額に何かが直撃した。
『っ痛―い!』
この私でも避けられないとは、一体どうやって投げたのだ・・・。
内心で不思議に思いながらも、痛みに悶絶する。


「ほう?痛いか。そうかそうか。」
咲夜が悶絶していると、聞き覚えのある声がした。
顔を上げれば、予想通りというか、なんというか。
我が祖父、朽木銀嶺がしれっと茶を啜っていた。


『何をする!ついにボケたか!!お爺様ったら、酷いぞ!』
「何を言う。まだまだ現役じゃわい。お主こそお頭が弱くなったのではないか?どうせ今まで儂に挨拶をするのを忘れていたのじゃろう?儂は悲しいぞ・・・。」
銀嶺はそう言って泣いているふりをする。


『悲しんでいた人のする仕打ちじゃあないだろう!こんなもん投げやがって!』
そう言いながら咲夜は銀嶺に向かって扇子を投げる。
しかし、銀嶺はそれをあっさりと受け取った。
「まったく、困った孫よのぉ。突然いなくなって心配をかけたのだからこの程度で済むわけなかろうて。その上挨拶にも来ないとはいいご身分じゃのう。」


言いながら近づいて来て、先ほどの扇子で咲夜の頭をパシパシと引っ叩く。
叔母上はそれを遠巻きに見ていた。
『いや、あの、それは、痛い!痛いってば!あーもうすみませんでした。私が悪かったですってば。おやめください、お爺様。』
扇子での攻撃が痛いのか、咲夜は涙目になって銀嶺にそう訴える。
しかしその手を緩められることはないのだった。
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