蒼の瞳、紅の瞳
■ 4.隊長の死


「・・・それで、その後何があったんだ?」
浮竹に促されて、話しを続ける。


『私が十番隊副隊長になると、当時の四十六室は私に目を付けたのだ。政の道具として。彼らは森羅の力と剣の巫女を欲した。私が剣の巫女であることをどこから聞きつけたのか知らないがね。』
だが、私の力は、そう簡単に使うことが出来るわけではないのだ。
この力は、簡単に利用していいものではない。


「漣咲夜。」
「我らのためにその力を振るえ。」
「さすれば漣家は安泰となろう。」
「これまで漣家が我らと関わってこなかったことも咎めぬ。」
あの暗い議場で、そんなことを聞かされた。
表向きは尸魂界のため。
しかし、四十六室が、それぞれ己の利益のために私を利用しようとしていることは明白だった。


『当然、私は彼らの言葉を拒絶した。それでも彼らは私を手に入れようと躍起になっていた。しかしそれが叶わないと悟ると、私に刺客を放ち始めた。私を恐れ、捕まえておこうとでも考えたのだろう。もちろん私は殺さずに刺客たちを追い払った。』
毎日眠れぬ日々が続いたものだ。
咲夜は内心で呟く。


『・・・だが、あの刺客たちには悪いことをした。彼らが任務を果たせなければ罰せられると解っていながら生きたまま返したのだから。だからと言って、殺すこともできなかった。殺してしまったら、理由を付けて牢にでも入れられることは明白だったから。』
実を言えば、刺客の中には死神も居たのだ。
それが酷く痛かったことを覚えている。
副隊長として守った部下に襲われる可能性もあるという考えに至って、部下たちさえ、信じることが出来なくなっていた。


当時のことを思い出しているのだろう。
彼女の顔が歪んだ。
そんなことがあったなんて。
俺は何も知らなかった。
彼女はいつも飄々としていて笑っていたから。


『刺客はそんなに問題じゃなかったが、ある時、風邪で寝込んでいるときに襲われてね。もうだめかと思ったのだけれど、隊長がちょうど見舞いにきてね。』
宗野春雪。
当時の十番隊隊長。
いつも静かに微笑んでいる男だった。


彼には人を寄せる性質があった。
彼の周りには、性別や年齢、職業や階級を問わずに様々な人たちがいた。
『それから、隊長は私を守っていてくれた。私が一人きりになることが無いように手をまわしてくれた。四十六室の放った刺客をこちらに寝返らせることさえやってのけた。おかげで、しばらくの間は私のもとに刺客が現れることはなかったし、少なくとも隊舎内に居る時は、私は安全だった。だが・・・。』
それも長くは続かなかった。


『・・・百余年前のあの日、父が、現れたのだ。暗く、重い、沼の底のような気配がした。・・・私はどうやらそれからの記憶が無いようなのだ。』
「え?じゃあ、何があったのか解らないの?」
『あぁ。気が付いたら私は傷だらけになっていて、隊長はすでに事切れていた。』
それを思い出して、思わず目を伏せる。


亡骸となった隊長を見たときの感情は、今でも忘れられない。
悔しくて、悲しくて。
自分の無力さに、打ちのめされた。
私が巻き込んだのだと、直感で思った。
だから、誰も巻き込まぬようにと、何も言わずに、逃げてしまったのだ。


「お主の父はどうしたのじゃ?」
『わからない。私が気付いた時にはもう姿はなかった。でも、まだ生きているはずだ。森羅には父の知識や記憶、経験などが刻まれていないから。剣の巫女のすべては死んだら森羅に刻まれるのに。』
しかし、父はあの件以来、私の前に姿を見せていない。
それが何か不気味だった。
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