蒼の瞳、紅の瞳
■ 3.孤独を思う


『・・・私が生まれてから一年ほど後、父は、剣の巫女の力を失った。』
咲夜は、漣家の最大の秘密については省略しながらも、鏡夜の力が奪われていったことを淡々と説明する。


『力を失い、死神としての立場は奪われた。漣家の中では父を称賛するものもあったが、漣家が欲しているのは、女の巫女だ。父は元々巫女としては異端だった。当主としては認められても、剣の巫女としては、皆、思うところがあった。』
力を失った父の周りからは、徐々に人が居なくなっていく。
私を生んだ母は籠りがちで、私を生む前からは想像が出来ないほど体が弱くなったと聞く。


父は、どれほど、孤独だっただろう。
生まれた時からあった力が衰えていく間、どれほど、苦しんだのだろう。
父は何とか流れ出る力を留めようと、あらゆる手を尽くした。
しかし、それは空しい努力に終わる。
それがさらに、父を絶望へと追いやった。


『・・・そして、父は私を殺そうとした。』
咲夜の静かな声に、浮竹と京楽は小さく顔を歪める。
父親に殺されそうになったという咲夜の過去と、娘に力を奪われた鏡夜の絶望を思って。
もし、そんなことが己に降りかかったのなら。
自分は、己の定めを恨まずにいられるだろうか。


・・・きっと、恨むだろう。
抜け殻のように、己の身が空っぽになったようで、それが恐ろしくて。
考えるだけで、恐ろしい。
それが実際に降りかかったのだから、鏡夜殿は、さぞ深い闇を見たのだろう。
我が子を手に掛けることも躊躇わせない闇があったのだろう。


『まぁ、当たり前だろうな。私が父からすべてを奪ったのだから。』
咲夜は悲しい笑みを浮かべた。
父は、私が生まれたせいで、人生が狂ってしまったのだ。
私の、せいで。
父が私を殺そうとした時に、私は殺されてしまえばよかったのだと、何度もそう思った。


もし、私が生まれなかったら。
そうすれば、父は今も幸せに暮らしていたかもしれないのだ。
漣家の当主として、死神として、何不自由なく。
父と私の間にあった真実を知ってから、何度、そう思ったことだろう。


『それから父は漣家を追い出された。表向きには死んだことにされたがね。決定を下したのは私の祖母、つまり父の母だった。私は父に会うことなく育てられた。・・・そして私は死神となり、当主となった。私はその時になって漸くこの事実を知ったのだ。祖母も母も父のことは何一つ教えてくれなかったから。』
咲夜は目を伏せる。


『ここまでが、私と父との話だ。』
「そっか。そんなことがあったんだね。」
「俺たちは、何も知らなかったんだな・・・。」
浮竹の悔しげな呟きに、咲夜は首を横に振る。
『私が、話せなかっただけだ。君たちを巻き込むのが、怖かった。』


「・・・馬鹿者!そこまでの話、儂はとうの昔に銀嶺から聞かされておったわ!」
言いながら元柳斎は咲夜を杖でど突く。
『痛い!』
「いつまで黙っているつもりなのかと、待ち草臥れたじゃろう。」
『ごめんなさい・・・。』


「儂が聞きたいのはその先じゃ。何故、姿を消した。宗野隊長が亡くなったのは、何故じゃ。あの日、あの場に、お主は居たのだろう。あの時、何があったのじゃ。」
『それも、話す。聞いてくれるだろうか。聞けば、優しい君たちのことだから、きっと、私の代わりに怒ってくれる。彼らを恨むかもしれない。』
咲夜は苦しげに言う。


「聞くさ。」
「そうだよ。咲ちゃんの話なら、なんだって聞く。」
「お前が一人で抱えるには、重いのだろう?それでもお前は、ずっと、一人で抱えて来たんだろ?」
『うん。』


「それじゃあさ、もう、話していいよ。僕らは、咲ちゃんの話をちゃんと聞くし、その話を聞いても咲ちゃんの味方だよ。どんな話であってもね。」
「俺も京楽も先生も、隊長だからなぁ。もう少し、頼ってくれてもいい。一人で抱えるな、漣。お前の悪い癖だぞ。」
『・・・そうだな。ありがとう。・・・では、話を続けようか。』

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