蒼の瞳、紅の瞳
■ 親と子

「「ははうえー!!」」
久しぶりの休日。
穏やかな昼下がり。
咲夜にじゃれつく双子を見て、白哉は口元を緩める。


この私が、父親になるとは。
三人の子の成長を見るたびにそう思うのは、私が幸せだからだろう。
そして・・・と白哉は咲夜を見つめる。
彼女が、咲夜が幸せだからだ。


正直、私には不安があった。
彼女は「母親」になることが出来るのだろうか、と。
実の両親と親子らしい時間などなかったであろう彼女が、我が子とどのように接するのか。
私自身、両親と密度の濃い時間を過ごしたわけでもなく、「親子」というものをよく解っていないこともあり、子育てに不安があったのも事実。


だが・・・要らぬ心配だったな・・・。
微笑む咲夜を見て、そして、弾けるような笑顔を見せる双子を見て、白哉は内心苦笑する。
親子とは、自然と親子になるものなのだ。
そして、思う。


私と、私の父は、親子だった・・・。
いつも穏やかに微笑んでいた、己の父。
妻である母を愛し、妹のように咲夜を愛し、そして、私を愛してくれた父。
私はそれと同じ愛情を咲夜に注ぎ、ルキアに、そして子どもたちに注いでいる。


それは咲夜も同じこと。
思えば、あれほど父が愛情を注いでいて、咲夜が愛を知らぬはずがないのだ。
父とは偉大なものなのだな・・・。
病弱ではあったが、いつも、何かとても大切なものを与えてくれる人だった。


「私も、そうありたいものだな・・・。」
「何がですか?」
独り言に返事があって、白哉は隣を見る。
いつの間にか、青藍が隣に座り込んでいるのだった。


「・・・邸の中では気配を消すな。」
思わず出た言葉に、青藍は笑う。
「父上が、何か考え込んでいる様子でしたので。邪魔をするのも悪いでしょう?」
悪戯な答えとその表情の中に、己の父の面影を感じて、白哉は思う。


私にも、父の血が流れているのだ・・・。
それをこの子が受け継いでいる。
父から私、私から青藍へと。
こうして脈々と、受け継がれていく。


まだ、その背が母親の胸の高さ程の我が子。
己の不手際のせいで、大きな傷を背負ってしまった我が子。
けれど、その聡明さから、将来は朽木家の当主にと、望まれるであろう我が子。
そして・・・これは橙晴と茶羅にも言えることだが・・・朽木家当主と、漣の巫女という、どちらの宿命も背負わされるであろう我が子。


「・・・父上?」
返事をしない私に首を傾げた青藍に手を伸ばして、その頬に添える。
「何か、辛いことはないか?」
私の問いに目を瞬かせてから、青藍は少しだけ困ったように目を伏せた。


「どうした?」
「いえ、その・・・辛いこと、では、ないのですが・・・。」
珍しく口籠ったその様子に首を傾げる。
どこか拗ねたような瞳をしていることに気付いて思考を巡らせるのだが、思い当たるものがなかった。


「・・・・・・僕だけの、父上と、母上だったのになぁ・・・。」
微かな声だったが、白哉はそれを聞き取ってその原因に思い当たる。
そういえば、双子が生まれてからというもの、青藍だけと過ごす時間が減った。
愛情が減ったわけではないが、その愛情を青藍に伝えることが疎かになっていたやもしれぬ・・・。


失念していた。
ルキアは別として、私も咲夜も一人っ子故に、そこまで気が回らなかった。
今まで自分だけに向けられていたものを、弟や妹に向けられては、寂しさを感じるのも道理。
兄になったとはいえ、青藍もまだまだ幼いのだ。


「済まぬ。知らぬ間に、我慢をさせていたか。」
頬を撫でてやれば安堵したようにすり寄ってくるその姿に、申し訳なくなった。
「父上のせいではありません。僕が、我儘で、贅沢なだけです。橙晴と茶羅という兄弟が出来て、すごく嬉しいのに・・・。」


嬉しい半面、寂しさを感じる。
そんな思いに心当たりがあって、白哉は笑いが込み上げる。
全く、親子とは似るものなのだな・・・。
笑っていると、青藍が頬を膨らませた。


「何を笑っているのですか!僕は真剣に・・・。」
「そう怒るな。そなたのことを笑ったわけではない。私も同じ思いをしたことを思い出したのだ。」
「父上も、同じことを・・・?」


「私も、そなたが生まれて、成長するのが嬉しい半面、咲夜との時間が減ったことに寂しさを感じたな、と。」
「父上が?」
「あぁ。・・・実を言えば、今でもそう思う時がある。」


咲夜たちには秘密だぞ、と悪戯に言ってやれば、青藍はくすくすと笑う。
父上も一緒なんだ、という呟きが嬉しそうで、年相応のその表情に安堵した。
聡明であっても、まだまだ子ども。
いや、これから先、青藍に私たちの手助けが必要なくなっても、ずっと。


「そなたは、私たちの大切な愛しい息子だ。」
「ふふ。はい、父上。」
未熟な父である私を無条件に慕ってくれる青藍は、やはり大切な我が子で。
その笑顔を守れる父親でありたいと、白哉は思うのだった。



2018.08.27
ある日の白哉さんと青藍。
この日の夜は、家族みんなで同じ部屋で眠ったと思われます。


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