蒼の瞳、紅の瞳
■ pray for ...

圧倒的な霊圧。
類稀なる才能。
苛烈さと冷酷さを持ち合わせたその瞳。
己の父に似た、その面差し。


初めて見る戦場での彼女。
その強さに衝撃を受けたのは勿論のことだが、戦う姿の美しさが酷く印象的だ。
平隊士らしき彼女の部下たちは畏怖をその瞳に映していたが、何を畏れるのだろうかと首を傾げる。
ちらりとこちらを見た彼女の表情が小さく歪められて、やはり、白哉は首を傾げた。


「・・・咲夜が、怖いかい?」
いつの間にか隣に居た彼女の上司が問う。
「まさか。咲夜姉さまに対して恐怖を覚えるなどあり得ません。」
きっぱりと答えた割には何の根拠もなくて、内心苦笑したのだけれど。


「・・・そうか。ならいいんだ。」
呟くような返事に彼を見上げれば、穏やかな瞳が向けられていた。
朝から任務の見学をしてみないかと自分を連れ出したこの男の意図はよく解らない。
けれど、戦う彼女の姿を自分に見せたかったことくらいは理解できた。


「宗野隊長は、恐ろしいのですか。」
純粋な疑問だった。
どちらかと言えば、隣に立つ宗野春雪という男の方が、分かり辛い。
穏やかで悪人でないことは確かだが、彼の本心はいつも包み隠されている。


「まぁ、ね。俺は、あの子に関しては、恐ろしいことが沢山ある。彼女自身を畏れるとか、そういうことも含まれてはいるけれど。」
「それは何故ですか?」
「何が、ではなくて、何故、と問うのだね、君は。」


「何が、と聞いて、答えてくれる貴方ではないでしょう。少なくとも今は、私に話してくれることなど何の障りもない些細なことだけのはずです。」
「はは。全く、朽木家の皆さんは鋭いね。いや、白哉君が、と言うべきかな。」
苦笑とともに頭を一撫でされるが、不快感がないのは相手が彼だからか。


「・・・私だって、己が未熟であることを自覚しています。咲夜姉さまが何か大きなものを抱えていることが解っても、今の私には傍に居ることしか出来ません。」
「それで十分だよ。・・・先ほどの君の問いに答えるならば、俺が何故彼女を畏れるのかについては、自分でも解らない。それは、本能的な恐怖に近いのだと思う。」


「本能的な恐怖?」
「あぁ。彼女の力は見ての通り強大だ。本気を出せば俺など一瞬で切り伏せられるだろう。総隊長を相手にしてさえ、彼女が傷を負うかどうかという程度。隊長の俺でさえ、彼女の力を推し量れないんだ。それくらい、彼女は計り知れない。」


「それは・・・理解の範疇にないから怖いということですか?」
「そういうことになるかな・・・。」
「・・・私には、よく解りません。強く、優しく、美しい。けれど、どこか脆くて、壊れそうで、不安定で、時折、消えてしまいそうなくらい弱い。姉さまは、そういう方です。」


「・・・そうか。やはり君が、咲夜の希望の光なんだね。」
再び穏やかな瞳が注がれて、今度は背中を押される。
「終わったようだ。行ってやりなさい。きっと君は、血にまみれた彼女を見ても、恐れはしないだろうから。」


とん、と軽く背中を押されただけのはずなのに、己の足はあっという間に速度を上げて。
刀を鞘に収めた彼女の元へと一目散に駆け抜ける。
辿り着くと、返り血を浴びている彼女が自分を見て不安げな瞳をする。
それに内心苦笑しながら、手拭いで彼女の頬の返り血を拭った。


「全く、咲夜姉さまは、自分の身が汚れることに頓着がなさすぎます。」
『・・・白哉は、私が怖くないのか?』
「何を言っているんです?私が何故咲夜姉さまを畏れなければならないんですか。誰も彼も考えすぎです。姉さまは姉さまでしょう。」


頬を拭いながら言えば、その手に彼女の手が重ねられる。
安堵したような瞳が細められて、まるで懐いた猫のようだ。
未だ自分の身長は彼女の肩に届いたかどうかくらいのはずなのに、何だか彼女の方が小さく見えてそれに安心する。


「・・・帰りましょう、姉さま。」
『そうだな。帰ろう。』
笑みを見せる二人を、春雪は静かに見つめる。
数日後に控えた彼女と彼女の父との再会が、今の二人のように穏やかなものであることを祈りながら。



2018.07.16
咲夜さんが失踪する数日前のお話。
初めて戦う咲夜さんを見た白哉さん。
春雪は時折こうして白哉さんを連れ出して、朽木家の邸の外に居る時の咲夜さんの姿を見せていたと思われます。


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