蒼の瞳、紅の瞳
■ 懐古A

鏡夜のところに娘が生まれて、顔を見に行った。
空色の瞳が鏡夜にそっくりだった。
御目出度いはずなのに、苦悩を湛えた鏡夜の瞳が気になる。


漸く鏡夜が事情を話してくれた。
剣の巫女。
遥か昔にその血は絶えたという話だったが、漣家がその存在を隠すための嘘だったとは。
その力を娘に奪われていることを考えると、鏡夜の立場が微妙なものになっていくかもしれない。


鏡夜が姿を消した。
娘に手を掛けようとしたらしく、漣家は彼を追放したらしい。
表向きは病死として、葬儀が執り行われた。
死んでもいない友の葬儀に参列するのは、妙な気分だ。


鏡夜の妻はずっと自分を責めている。
娘とは引き離されているらしく、顔を見ることさえ稀なようだ。
娘が朽木家に居ると聞いて、様子を見に行く。
朽木家の跡取りとなるであろう蒼純殿の背中を追いかける幼気な姿に、胸が痛んだ。


数年ぶりに見た鏡夜の姿には、生気がない。
共に学び、肩を並べて歩いた青春時代を思い出す。
朗らかに笑う鏡夜には、もう会えないのかもしれない。
森羅の真実を話しながら、鏡夜は涙を流した。
娘を頼む、と。


蒼純殿が護廷十三隊に入隊するらしい。
それに伴って、咲夜は漣家に戻ることになった。
鏡夜の母親が彼女をどう扱うか、注意が必要だ。
彼女を家に帰したところを見ると、朽木家は詳しい事情は知らないらしい。


漣家に戻った咲夜の情報が、一切流れてこない。
邸を出入りしている様子もなく、どうやらずっと邸の中に居るようだ。
漣邸に忍び込んで、無理にでも様子を見るべきか。
何だか嫌な予感がする。


咲夜が死神統学院に入学するらしいと聞き、様子を見に行く。
数年ぶりに見たその姿は美しいが、その瞳には何の感情も映ってはおらず、愕然とした。
霊圧も大きくなっているらしい。
私などが彼女を守ることが出来るのか不安になってきた。


白衣と緋袴の姿で、血を流しながら駆けてゆく咲夜を追っていくと、二人の院生が彼女と対面しているのが見えた。
総隊長の愛弟子、浮竹十四郎と京楽春水。
直接の関わりはないが、私は一応彼らの兄弟子で、総隊長から二人の話は聞かされている。
彼らとの関わりが、咲夜に良い変化をもたらしてくれるといいのだが。


咲夜が十番隊に配属される。
それとほぼ同時に漣家当主となった。
鏡夜が生きていることを知ったらしく、彼と交流のあった者たちを調べ始めている。
鏡夜は追放される直前に私と関わっていた痕跡を消したらしい。
初めから咲夜を私に託すつもりだったのだろう。


最近の咲夜は、浮竹十四郎と京楽春水の前でも時折笑みを見せるようになった。
蒼純殿に子が生まれて、白哉というらしい。
その子に懐かれたらしく、咲夜は嬉しげだ。
ただ、時折彼女の周りにある妙な気配が気になる。
その気配が近くにある時の咲夜は、平静を装っているが隙がない。


総隊長からいい加減席次に着けと呼び出される。
行ってみればそこには総隊長以外に隊長が三人。
嫌な予感がして総隊長を見れば、素知らぬ顔で隊主試験を執り行うと宣言された。
隊長になったら咲夜を見守る時間が減ってしまう・・・と思ったところでいい案を思いつく。


無事に隊主試験を終え、十番隊長の仕事を引き継いでから一か月。
咲夜は六番隊の隊主室で仕事をしているらしく、十番隊舎でその姿を見かけることがない。
時折朽木邸を覗くと、白哉君に稽古をつけていることはあるのだが。
楽し気に木刀を振る二人は、微笑ましい。


一番隊舎での任官式。
副隊長を選べと言われて咲夜の名を出せば、ようやく彼女が姿を見せる。
試しに鏡夜の名を出してみれば、案の定、鋭い視線を向けられた。
でも、副隊長を引き受けてくれたので良しとする。
これでいつでも咲夜の傍にいることが出来るようになった。


仕事中、咲夜がいつも以上に静かなので気になって見てみれば、熱が出ていた。
家に帰らせて、仕事を終えてから見舞いに行くと、黒装束の男たちに襲われている咲夜を発見し男たちを気絶させる。
意識が朦朧としている様子の咲夜を朽木邸に預けて、意識を取り戻した男たちの後をつける。
彼らが向かった先は皇家で、四十六室が彼女を欲していることを知る。


白哉君と咲夜は本当に仲良しで、二人でいるとよく笑顔を見せてくれる。
最近気づいたことだが、朽木家の誰かが咲夜の傍に居ると、刺客は襲ってこない。
流石の四十六室も、朽木家の者を傷つけて、朽木家を敵に回すことはしたくないようだ。
白哉君にそれとなく咲夜の傍に居るようにお願いすれば、彼は真っ直ぐな瞳をこちらに向けて大きく頷いてくれた。


久しぶりに鏡夜が姿を見せて、咲夜に会って話がしたいと言ってきた。
どうやら大きくなりすぎた森羅を封じる術を見つけたらしい。
話を聞けば、それは鏡夜の身の中に森羅を封じて、森羅と共に滅びるということだった。
死ぬつもりか、と問えば、親というものは子どものためならばいくらでも命を懸けるものだ、と返される。
たとえそれが、己のすべてを奪い、憎んだ子どもだとしても、愛しいのだ、と。


いよいよ、明日だ。
漸く鏡夜と咲夜が顔を合わせる時が来る。
咲夜には鏡夜と会うことを伏せているが、どうか、彼女が鏡夜の言葉に耳を傾けますように。
一瞬でも、親子の情が交わりますように。


緊張して早くに目が覚めてしまった。
数刻後には二人が顔を合わせる。
咲夜は笑うようになったけれど、まだまだ闇を抱えている。
鏡夜は今日が最期の日になると言っていた。
運命とは残酷なものだと思わずにはいられないが、せめて、二人が笑顔で別れることが出来ることを願う。



2017.03.23
Bに続きます。


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