蒼の瞳、紅の瞳
■ 懐古@

「・・・お前、今、幸せか?」
一護との打ち合いを終えて茶を飲んでいると、一心が唐突に問うてきた。
『幸せだが・・・?』
「そうか。じゃあ、そんな幸せな咲夜さんにこれを渡しておく。」
差し出された鍵に首を傾げると、一心は頭を掻いて苦笑する。


「あの日・・・俺が真咲に助けられた日、懐に入れっ放しだったんだが。一護の力を抑えられなくなって、二十年ぶりに死神の姿になった時、そのまま入っててな。十番隊の第二書庫の鍵だ。」
『第二書庫?確かあそこは今、開かずの第二書庫と言われているはずだが・・・一心のせいだったのか。』


「なんだ。冬獅郎の奴、開けてないのか?・・・勿体ない奴だ。あの部屋には歴代の十番隊隊長の「忘れ物」があるってのに。あいつも一緒になって片付けたはずなんだが。」
『歴代の隊長の忘れ物・・・?』


「そうだ。俺の二、三代前の隊長から、先代の隊長の宗野隊長までの私物が収められている。何故だか家族と縁が薄い隊長ばかりで、荷物を引き取りに来る者が居なくてな。かといって捨てるには惜しいものが沢山あったから、隊士たちが引き取って、隊舎に保管してたんだ。それを俺が隊長になった時に第二書庫にしまったんだよ。」
歴代の隊長を思い出しているらしい一心は、懐かし気に目を細める。


「宗野隊長の荷物は俺が片付けたからよく覚えている。良い物を大切に使う人だったんだろうな。使い込まれた文机に硯箱。根付けや本。宗野隊長が亡くなられた次の日に仕立てあがった隊長羽織。それから、宗野隊長の隊長日誌と私的な日記。」
『宗野隊長の荷物は、全て処分されたのだと思っていた・・・。』


「日記だけでも読むといい。宗野隊長は、本当にお前が大切だったんだな。お前の親父の代わりに、お前の傍で、お前を守っていたんだな。あの日記を読んだときは、背筋がぞっとしたぜ。お前も宗野隊長もそんな素振りは一切なかったが、四十六室に追われていたとは。あの日記が四十六室の手に渡らずに残っているなんて、奇跡だぞ。」


『私のことが、それほど詳しく書いてあったそれを、全部、読んだのか・・・?』
「まぁな。厳重な封印がされていれば、中身が気になるもんだろ?封印を解くのに一年以上かかったんだぜ。中身を見て納得したけどな。せめて日記だけでもお前が引き取ってくれ。隊士たちがあれを読んで、余計なことに巻き込まれたら可哀そうだからよ。」


『・・・そう、だな。』
「読むかどうかはお前が決めていい。隊長日誌のほうは、冬獅郎に見せてやれ。いい勉強になる。」
一心はそう言って鍵に手を伸ばさない私の前に鍵を置くと、廊下に出て行った。
恐る恐る鍵を手に持ってみると、見た目以上に重くて、その重みが心を重くした。


・・・過去を、思い出すのは、まだ、怖い。
宗野隊長を巻き込み、尚且つその命を奪ってしまったという自責の念が、痛みを伴って心を締め付ける。
血溜りの中に倒れていた隊長の姿を思い出して、ぎゅ、と鍵を握りしめる。


『まだ、痛い、が・・・逃げてばかりもいられない、か・・・。』
きっと一心は、今の私ならば読んでも平気だと思ったから、この鍵を渡してきたのだ。
それに、隊長のことをもっと知りたい。
隊長は自分の話を殆どしない人だったから。


『・・・よし。帰るか。落ち着いたら十番隊に行こう。読むかどうかはともかく、一心のいうことは一理ある。誰かの目に触れる前に、私が引き取らなければ。』
咲夜はそう呟いて立ち上がり、大切そうに鍵を懐にしまい込む。
何やら騒がしくなってきた声に苦笑を漏らして、一護達の元へ向かうのだった。



2017.03.23
Aに続きます。


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