蒼の瞳、紅の瞳
■ 双子 前編

「・・・結構なお手前で。」
場所は鹿威しが鳴り響く一室。
山本元柳斎その人が一番隊舎の一角に建立した茶室である。
茶会に招かれた白哉は、浮竹、京楽、彼らの副官、それから日番谷、卯ノ花と共に元柳斎が点てた濃茶を嗜んでいた。


濃茶に合わせたのか、菓子が甘めで一口で止めたのは既に半刻ほど前のこと。
足が痺れたと言って京楽が足を崩したのは四半刻前で、そのあたりから茶会からただのお茶会に雰囲気が切り替わった。


ルキアと七緒、日番谷、卯ノ花の四人は、出され続ける濃茶の消費を諦め、菓子を口に運んでいる。
今、元柳斎の茶に付き合っているのは、白哉ただ一人となっているのだった。


談笑はなされているが静かな空間。
そこへ聞こえてきた、軽い足音。
今や慣れ親しんだ霊圧を感じて、白哉は微かに口元を緩める。


「「・・・ちちうえ、みーつけた!!」」
舌足らずの幼い声と同時に、躙り口が開かれる。
ひょこりと中を覗くように現れたのは、瞳を輝かせた二つの顔。
さらさらな黒髪と、黒い瞳。
そして、まばゆい金髪と、空色の瞳。
色違いの袴を着せたのは、咲夜だろう。


「・・・橙晴。茶羅。」
白哉が名を呼べば、二人で競うようにして茶室に入ってくる。
畳に足を滑らせそうになりながら白哉に駆け寄って、その勢いのまま、彼に抱きついた。
咲夜と青藍の霊圧が近くにあるが、入って来ないのには何か訳があるのだろう。
白哉は気付かぬふりをして、双子に目を向ける。


「まだ護廷隊に来てはならぬと、言っただろう。」
言いながらも、白哉は二人を抱きしめる。
朽木家当主であり、六番隊隊長である朽木白哉であっても、我が子の可愛さには甘くなる。
彼が青藍とこの双子を溺愛しているというのは、周知の事実だ。


「さらは、ちちうえに、しつもんがあります!」
「だいせいも!」
瞳を輝かせた双子に、白哉は首を傾げる。
他の隊長たちも彼らの質問とやらに興味があるらしく、二人の言葉を待った。


「「ちちうえ、あかちゃんは、どこからくるのですか?」」
「・・・・・・。」
キラキラと輝く瞳は逸らしたくなるほどに眩しい。
子を為すための行為は決して後ろめたいものなどではないが、無垢な幼子にそれを教えるのは憚られた。


「・・・いずれ、お前たちにも解る日が来よう。」
双子の頭を撫でながらも何となく視線を逸らしてしまうのは、仕方のないことだろう。
ちらりと双子に視線を戻せば、やはりというべきか、不満げな顔。
彼らの次の言葉が予想出来てしまい、頭を抱えたくなる。
咲夜と青藍が入って来ないのは、こういう訳か・・・。


「「いま、しりたいの!」」
予想通りの言葉と共に、膨らんだ頬。
確りと私の袖を掴んでいるあたり、双子は長期戦の構えである。
こうなった双子の意識を他へ逸らすのは大変難儀なことであった。


・・・助けろ。
内心で呟いて浮竹と京楽に視線を送るも、彼らは慌てて視線を逸らす。
総隊長は素知らぬ顔で茶を点てている。
この場をどうにか収めてくれそうな卯ノ花隊長はただこちらに笑みを返すだけで、助けてくれないらしい。


日番谷隊長を見れば、いつの間にか茶室から姿を消している。
伊勢副隊長はそれとなく京楽の後ろにさがって、自分に矛先が向けられぬように気配を消していた。
ルキアもまた、そろそろと浮竹の後ろに隠れようとしている。


「「ねぇ、ちちうえ!」」
「・・・赤子は、コウノトリが運んでくるのだ。」
「それじゃあ、さらもたまごからうまれたの?」
「だいせいもとりさんみたいにとべるようになるの?ぱたぱたしたらとべる?」
「・・・。」


何故、厄介な方向に話が進んでいる・・・。
肯定するのは容易いが、飛べると思って高い所から落ちたら・・・などと考えると、肯定するべきではないだろう。
かといって、否定すれば話が逆戻りしそうだ・・・。


「・・・・・・鳥のようには、飛べぬ。」
あえて茶羅の卵についての質問はスルーすることにした。
「「どうして?」」
どうやら茶羅の興味は飛べるか飛べないか、という方に流れたらしい。
内心安堵して、再び口を開く。


「お前たちが両手を広げても、飛ぶことは出来ぬだろう。」
出来ぬ、と言われれば、やってみたくなるらしい。
二人は私から離れて両手を広げる。
飛ぶ気配のないことに首を傾げてパタパタと腕を動かしてみるも、やはり飛べない。
その姿の愛らしさに口元が緩みそうになったが、だらしなく頬を緩ませている京楽が視界の端に見えて、口元を引き締めた。


「とべない・・・。」
「とべないね・・・。」
「でもちちうえは、そらからおりてくるよ?」
「びゅーんて、とんでくるよね?」
彼らの不思議そうな言葉に、皆が小さく笑う。


「「?」」
「君たちの父上のそれは、瞬歩っていうんだよ。」
首を傾げた双子に声を掛けたのは京楽だ。
「「しゅんぽ?」」


「そう。簡単に言うと、死神が飛ぶ方法だね。」
「だいせいとさらは、しにがみじゃないからとべないのですか?」
「死神じゃなくても飛べるよ。」
「でも、ぱたぱたしてもとべません!」


「あはは。それは飛び方が違うからさ。」
「「ちがうの?」」
「そ。僕らの飛び方は、ぱたぱたするのとは違うのさ。・・・どうやって飛ぶか、知りたいかい?」
楽しげな京楽に、双子は瞳を輝かせる。


「「しりたい!」」
「・・・と、いうことだけど、この子たちに瞬歩を教えてもいいかい?」
問われて逡巡すれば、それに待ったを掛ける者が一人。


「茶羅さんに橙晴君。京楽隊長はこれからたくさんお仕事があるのです。申し訳ありませんが、瞬歩はほかの方に教わっていただけますか?」
逃がしませんよ。
伊勢副隊長の瞳は、そう語っている。
どうやら京楽は双子に瞬歩を教えるという名目で仕事から逃げようとしていたらしい。


「そうか。それは残念だったなぁ、京楽。そういうことなら、俺たちで瞬歩を教えよう。十三番隊の仕事は、片付けたからな。な、朽木?」
「はい。ここ数日は隊長のお体の調子がよろしいので。」
「・・・浮竹の裏切り者。」
ぼそりと京楽が呟くが、浮竹は黙殺する。


「もちろん、兄様がよろしければ、ですが・・・。」
ルキアの言葉に皆の視線が私に集められる。
ちらりと双子を見やれば、期待の籠った目でこちらを見ている。
続いて浮竹を見れば、任せろ、とばかりに頷きを返された。


「・・・良かろう。」
「「やったぁ!ちちうえ、だいすき!!」」
弾けるような笑みを浮かべて二人は飛びついてくる。
それを受け止めて、二人の顔を覗きこんだ。


「ただし、怪我には気を付けるのだぞ。良いな?」
「「はい!」」
「それじゃ、十三番隊舎に行くぞ、橙晴、茶羅。」
浮竹の言葉に、二人は嬉々として私から離れていく。


「「はーい!いってきます、ちちうえ!」」
遠ざかった温もりは惜しいが、こちらを振り返ったその笑顔の眩しいこと。
「あぁ。・・・頼んだぞ、ルキア、浮竹。」
「はい。」
「安心しろ。無茶はしないさ。」



2017.01.18
隊長たちを巻き込む双子が見たい、とのリクエストがあったので。
後編に続きます。



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