蒼の瞳、紅の瞳
■ 1.巫女の誕生


『・・・話は、私が生まれたときに遡る。』
咲夜はそういって静かに話し始めた。


数百年前。


漣家に産声が上がった。
予定よりも早く生まれたその子どもは、弱弱しく、小さい。
「この子が、俺の・・・。」
男は生まれたばかりの赤子に触れようと手を伸ばす。
その瞳は愛しげで、確かに赤子を愛しんでいるようだった。


しかし。
男の手が赤子に触れた瞬間、男は違和感を感じた。
赤子に触れている手から、己の力が流れ出ている気がするのだ。
「何故・・・。」
そう思う間にも、己の力が赤子に吸い取られていく。
慌てて手を赤子から離すが、触れた手が酷く冷えている。
ぞわり、と、背筋が震えた。


「俺の、力が、吸い取られている・・・?」
男はその感覚に覚えがあった。
滅却師。
かつて彼らと対峙した時、霊子を奪われた経験があるのだ。
あの時感じたものと、それはよく似ていた。


だが、そんなはずはない。
この子の父である俺は死神で、母は多くの死神を輩出している朽木家の姫。
この赤子は、死神の血こそ濃いが、滅却師の血など流れていないに等しい。


では、この感覚はなんだ。
この言いようのない不安は一体・・・。
俺と、この子の間に、一体何がある・・・?
この子が俺の力を吸い取る理由とはなんだ?
何故、俺はこんなにもこの子を恐ろしいと感じる・・・?


我が子を恐ろしいと思ったことに、男は困惑する。
何か、良くないことが起こる。
本能がそれを知らせている。
そしてそれは、この子を、俺を、幸せにはしない。


・・・早急に調べねば。
男はそう思ってすぐさま邸の書庫へと向かう。
それを見計らったように、生まれたばかりであるはずの赤子の瞼が開かれた。
その瞳は、紅。


「これが、新しき剣の巫女。私の半身。」
赤子の唇から女の声が聞こえてくる。
「二代続いて生まれるとは。ごめんなさい、我が主・・・。私の主はもう、貴方ではなくなってしまった・・・。」
そう呟く赤子の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
しかし、その声を聞く者も、その涙を拭う者もいなかった。
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