蒼の瞳、紅の瞳
■ 唯一

くすくす。
ふふ。
執務机に向かっていた白哉の耳に、忍び笑いが届いた。
子ども特有の、高くよく響く声。
本人たちは気付かれていないと思っているのか、こそこそと気配が近づいてくるのが解る。
黒と金の髪の毛先が机の陰からひょこりと姿を見せて、思わず口元が緩む。


「いくよ?」
「うん。」
「「せーの!」」
どうやら私を驚かせようとしているらしい。
白哉はそう思って、二人が出て来るのを待つ。


「「・・・わぁ!!!」」
出てきたのは橙晴と茶羅。
高い声が部屋に響く。
予想通り出て来た二人に、白哉は内心苦笑した。


「・・・あれ?」
「ちちうえ、びっくりしてないね?」
「うん。かくれながらきたのに。」
「「どうして?」」
揃って首を傾げる姿に、笑みが零れる。


「最初から気付いていたぞ。」
「「いっしょうけんめいかくれてきたのに・・・。」」
頬を膨らませた二人は、愛らしいというほかない。
「そう膨れるな。」
二人の頬に手を伸ばしてそう言えば、悔しげな瞳がこちらに向けられる。


「・・・つぎはもっとうまくかくれます。」
「ちちうえを、びっくりさせてあげます。」
「受けて立つ。私は、そなたらがどんなに隠れていても見つけてやろう。」
「「みつからないもん!!」」
挑むように見上げて来た二人に、こちらも視線を返す。
暫く睨みあっていると、開け放たれていた窓から笑い声が聞こえてくる。


「青藍。」
「「にいさま!」」
「父上に喧嘩を売るとは、度胸がありますねぇ。」
「にいさま、みてた?」
「うん。見ていたよ。」


「あのね、れんじさんはね、きがついてなかったよ!つくえのうえにおしごとがいっぱいで、みえなかったの!」
「あはは。そっか。隠れるのが上手くなったんだね。えらい。」
窓枠を飛び越えてきた青藍は、二人の前に膝をついて、頭を撫でた。
二人は嬉しそうにそれを受け入れる。


「でもね、きっと、父上は君たちが何処に居ても見つけてしまうよ。」
「「どうして?」」
首を傾げた二人に、青藍は微笑む。
「僕らの父上だからね。父上は、兄様のことだって見つけてくれるんだよ。」
「にいさまも、かくれたの?」
「それで、ちちうえにみつかっちゃった?」


「うん。でもね、父上はどんな時でも僕らを見つけてくれるから、何かあったら、父上を信じて待っているんだよ?必ず迎えに来てくれるから。解った?」
「「はい!」」
頷いた二人に、青藍は満足げに笑う。
「よし。それじゃあ、ルキア姉さまをお迎えに行こう。そろそろ現世から帰って来るって。」
「「やったぁ!」」


「父上は、今日は邸に帰られますか?」
「あぁ。今日は定刻で帰る。」
「ではお帰りをお待ちしております。・・・ほら、二人とも、行くよ。」
「「はーい。」」
そのまま駈け出して行こうとする二人に苦笑を漏らした青藍は、ひょいと二人の襟首を捕まえて私に向き直らせる。


「「にいさま?」」
「お部屋を出るとき、何か言うことがあるでしょう?」
「「しつれいしました!」」
青藍に言われて二人はぺこりと頭を下げた。
周りの手を焼かせる双子を素直に従わせている青藍の手腕に内心苦笑する。
「では、失礼します。」
青藍も一礼すると、二人の手を引いて執務室を出て行った。


「・・・睦月。」
静かになった執務室で呟くように言えば、窓の外に気配が現れる。
「三人の護衛を一人で引き受けるとは、少々無茶なのではないか?」
「護廷隊の中ならば、俺一人で十分です。死神の皆さんは、あの三人に甘いですからね。皆して彼奴らの味方です。」
「そうか。それは心強いな。」
「はい。ですが・・・。」
睦月はそこで言葉を切る。


「どうした?」
「・・・青藍への妙な贈り物が増えています。今日だけで三つほど。睡眠薬や媚薬、それから痺れ薬なんかが仕込まれていました。これから先、成長するごとにもっと増えることでしょう。本人にも気を付けさせてはいますが、毒や媚薬を含めた薬の効果を打ち消すものを開発中です。もう少し時間がかかりそうですが。」


「そうか。そろそろ貴族の集まりにも顔を出させようかと思っていたが、暫くは様子を見ることにしよう。」
「その方が賢明かと。青藍の女性不信も治るかどうか・・・。最近は女性死神協会の面々が相手なら触れられることは平気なようですが。」
睦月の言葉に白哉は考える仕草をする。


「・・・女性不信というのは、治るものなのか、睦月?」
「何で俺に聞くんですか・・・。」
「そなたが女性不信だからだ。」
「いや、そうなんですけどね・・・。まぁでも、本当に大切な相手を見つけることが出来れば、女性不信も治るかもしれません。彼奴の「唯一」が見つかることを、信じるしかないですね。」


「経験談か?」
「さっきから何なんですか・・・。俺、何かしました・・・?」
「純粋な疑問だ。」
「・・・俺の唯一は、朽木家ですよ。」
思わぬ答えが返ってきて、白哉は睦月をまじまじと見る。


「・・・・・・なんですか。」
気まずげに顔を逸らされて、目を瞬かせた。
「・・・いや、驚いた。」
「そうですか。では、俺は、あの三人の護衛に戻ります。」
何事もなかったように言うや否や姿を消した睦月に、次第に笑いが込み上げてくる。


素直じゃない奴だ。
そう思いながらも、彼の言葉が本心であるのが解って、嬉しいと思ってしまう自分が居る。
「後で褒美をくれてやろう。」
白哉はそう呟いて、楽しげに仕事に戻るのだった。



2016.10.07
双子と白哉さんを書いていたはずが、最後は睦月に持っていかれてしまいました。
何故だろう・・・。
睦月へのご褒美はきっと薬草園の拡大とかそういう感じのもの。
知らなくてもいい設定ですが、睦月は朽木邸の一角に専用の薬草園を持っています。

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