蒼の瞳、紅の瞳
■ 別室にて@

『・・・蒼純様。』
「ん?」
『まだですか・・・?』
「まだまだ、かな・・・。」
『・・・一体、いつ終わるのですか。隊主会は。』
咲夜の呟きに、その場に居た副隊長全員が苦笑した。


場所は一番隊舎。
隊主会の間、別室での待機を申し付けられて、十三番隊以外の副官が揃っている。
年が明けて最初の隊主会。
各隊の隊長副隊長が新年の挨拶のために集められたのだが、挨拶もそこそこに、副隊長たちは別室に移されたのだった。


『蒼純様。咲夜はいい加減眠いです。こう見えて三日程眠っていないのです。』
「どうして?」
眠そうな咲夜に、蒼純は首を傾げる。
『・・・任務が、ありまして。』
顔を逸らしながら言われて、蒼純は彼女の両頬を包んで、顔を自分の方に向けさせる。


「また、余計な任務を引き受けたね・・・?」
『引き受けなければ、漣家にあらぬ疑いがかけられますので。それでは朽木家にもご迷惑がかかります。』
拗ねたように言われて、蒼純は彼女を叱ろうと準備していた言葉を呑み込んだ。
四十六室から直接命じられる任務が、彼女の精神を削っていることをよく知っているために。


「・・・それでも、無理はしないでくれ。駄目だと思ったら、引き受ける必要はない。いいね?」
『・・・はい。』


「二人とも、相変わらずやね。見てて不快やないから別に構わへんけど。サク、眠いなら寝たらええよ。これ、貸したるわ。」
リサがそう言って取り出したのは、見覚えのある派手な着物。
『京楽の着物だ。』
「いつも予備持たされてんねん。邪魔やからあげるわ。」


リサは躊躇いなく京楽の着物を床の上に広げる。
それから表紙が怪しげな雑誌を取り出して、その上に手拭いを掛けた。
どうやら、それを枕にしろということらしい。
「ほら、出来たで。早う眠り。おっさんら、あと半刻は終わらんで。」


とんとん、と簡易ベッドを叩かれれば、体がずっしりと重くなる。
咲夜は蒼純からふらふらと離れて、その上に転がった。
『京楽の、匂いがする・・・。』
「そらあかん!サクにおっさんの匂い付けさせて堪るか!」
咲夜の呟きにひよ里が飛んできて、彼女を起き上がらせる。
懐からスプレーを取り出して、着物に吹きかけてから再び咲夜を寝かせた。


『匂いが消えた・・・?』
「消臭スプレーや。ハゲ真子が似合わん香水つけててなぁ。こっちの方がお似合いや思て持って来てん。」
『ありがとう、ひよ里・・・。でも、真子さんの香水は、たぶん、いいやつ・・・。』
「せやから似合わへんのやんけ。・・・ええから、早う眠り。ウチが男ども見張っといたるわ。」


『うん・・・。そうじゅんさま・・・。』
名前を呼びながら手を伸ばされて、蒼純は苦笑する。
「はいはい。ここに居るから、大丈夫・・・うわ!?」
咲夜に手を引っ張られて、蒼純はしりもちをつく。


「こら、咲夜!何をして・・・全く、困った子だ。」
抗議の声を上げようとした蒼純だったが、膝の上で満足そうに眠りについてしまった咲夜にため息を吐くに止めた。


「漣君は、本当に朽木副隊長のことが好きなんだね。」
くすくすと笑いながら近づいてきたのは、五番隊副隊長藍染惣右介。
蒼純は、この男に咲夜の寝顔は見せまいと彼女の頭を撫でるふりをしてそれとなく顔を隠した。


「ふふ。羨ましいですか?」
「そうだね。凄く羨ましいよ。」
穏やかな微笑みの裏で火花が散っている。
また始まった・・・。
それを見た副隊長たちは、内心で呆れる。


二人とも穏やかで隊士たちからの信頼も厚いのに、何故か二人が揃うと剣呑な雰囲気が見え隠れするのだ。
特にその場に咲夜が居る場合には。


「ね、リサ。あの二人、何で仲悪いの?」
白に問われてリサも首を傾げる。
「さぁ?よっぽど気が合わんのやろ。あの二人が揃うと面倒やねん。」
「同感や。特にサクが絡むとあかん。」
何処からか取り出した駄菓子を貪りながら、ひよ里は呆れた視線を彼らに向ける。


「ていうか、朽木副隊長とサクって、どういう関係?」
「知らん。本人に聞いたらええやん。」
「そっか。そうだね!じゃあ、聞いてくる!」
火花が散る中に躊躇いもなく向かっていく白をリサとひよ里は呆れ顔で見送った。



2016.10.29
Aに続きます。

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