蒼の瞳、紅の瞳
■ 蒼と藍A

「咲夜。こちらの任務は終わったけれど、こっちはどう・・・?」
音もなく現れた蒼純様は、握手を交わす私たちを見て、動きを止める。
しかしそれは一瞬のことで、はっとした蒼純様は私を抱き寄せるようにして自分の腕の中に押し込める。
その拍子に藍染の手からするりと私の手が離れた。


『そ、蒼純様・・・?』
藍染から逃れられたのは幸運だが、この状況は何だかおかしい。
首を傾げれば、大きなため息を吐かれた。
「君の身は、簡単に男性に触れさせてはいけないよ。」


『へ?ただの握手ですよ・・・?』
「握手でも駄目。いい?」
囁くように言われた言葉に首を傾げつつも、私自身、心を許していない他人に触れられることは得意ではないので、その言葉に頷く。


「よし。良い子。」
満足げな言葉と共に頭を撫でられる。
その心地よさにされるがままになっていると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。


「どうやら、僕は保護者の方に好かれなかったようだ。握手さえも許してもらえないとは、余程嫌われているらしい。」
『そ・・・!?』
そんなことはない。
そう言いたかったが、蒼純様の胸板に押し付けられてくぐもった声は誰にも届かない。


「私の可愛い妹分だ。そう簡単に誰かに触れされたりはしない。」
蒼純の何処か棘を含んだ声音に、咲夜は内心で首を傾げる。
「妹、ね・・・。それは愛とは言わないのかな。僕には独占欲に見えるが。」
「この子を独占するのは、私ではないよ。・・・そして、君でもない。」
「なるほど。」
何やら不穏な空気を感じるが、いい加減呼吸が苦しい。
腕を緩めて欲しいと蒼純様の背中をぽんぽんと軽くたたけば、すぐに腕が緩められた。


『蒼純様。』
「うん?」
向けられる眼差しはいつもの優しいもので、先ほどの不穏さは気のせいだったのだろうかと疑問に思うほどだ。
『私などを抱きしめるより先に、白哉を抱きしめてあげてください。私が白哉に恨まれてしまいます。それに、奥方にもあらぬ心配をかけてしまいましょう。』


「・・・君にそんなまともな心配が出来たのか。」
驚いたように言われて、思わず頬を膨らませる。
『蒼純様は私を何だと思っているのですか!咲夜は、それが解らぬほど無知ではありません!いつまでも子どもで居るわけではないのです!』
そう言ってそっぽを向けば、くすくすと笑い声が落ちてくる。


「そんなに拗ねないでおくれ。君を拗ねさせると、私が白哉に恨まれてしまう。」
『拗ねてなどおりません!』
「そう?それじゃあ、今日は朽木家に泊まりなさい。」
『え?何故そう言う話に・・・?』
首を傾げれば、苦笑を返された。


「最近、白哉の寝つきが悪いようでね・・・。妻が疲れているようなんだ。だから、今日は休ませようと思って。引き受けてくれるね?」
『それは・・・白哉と一緒に寝ていいという?』
「そう。白哉を抱き枕にしてもいいから、一緒に寝てあげてくれるかな?白哉はあれで君が来るのを楽しみにしているんだ。君ならば、白哉も嫌がったりはしない。」
『・・・それじゃあ、行きます。』


「ふふ。よろしく。・・・そういうことだから、この任務の報告書は藍染副隊長にお任せするよ。この程度、君ならば訳ないよね?」
ニコリと微笑んだ蒼純様だが、挑むような瞳をしている。
その瞳を向けられた藍染をチラリとみれば、彼もまた同じような瞳をしていた。


「もちろん。漣君の活躍も漏らさずに報告しておくよ。」
「それは有難い。この子は少々お転婆だからいつも総隊長にお説教を喰らっていてね。宗野隊長に大変なご迷惑をお掛けしているものだから、とても助かる。」


・・・やっぱり、にこやかだけれどどこか不穏な気配がする。
蒼純様も、藍染のことが嫌いなのだろうか・・・?
伺うように蒼純様を見れば、それに気付いたのか、蒼純様はこちらを向いて本当の微笑みを見せてくれた。


「帰ろうか、咲夜。私の方の報告書は矢胴丸副隊長が引き受けてくださったから、私の仕事は終わりだ。」
『・・・蒼純様、最初から私の方は藍染に任せるつもりでしたね?』
「さて。・・・あ、そうそう。平子隊長から藍染副隊長へ伝言を預かっていたのでした。」
蒼純は、咲夜の疑わしい視線を受けながら、さも今思い出したかのようにそう言って藍染を見る。


「何か?」
「・・・猿柿副隊長が熱を出したとかで、後の仕事は君に任せるそうです。」
にっこりとそう言った蒼純に、藍染の微笑みが若干引き攣った。
・・・やっぱり、どこか不穏な雰囲気。
咲夜は内心で呟いて、関わらない方がいいだろうと二人から視線を外す。



2016.09.14
Bに続きます。

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