蒼の瞳、紅の瞳
■ 蒼と藍@

「・・・砕けろ、鏡花水月。」
解号と共に美しい流水の技が目の前に広がる。
しかしそれは偽りの美しさで。
可哀そうなことをする・・・。
それを見た咲夜は、彼の斬魄刀を憐れに思い、内心でそう呟いた。


各隊の副隊長が招集されての任務。
虚の能力を探るという指令であったのだが、能力を調査した結果、このまま昇華してしまおうという話になった。
そして、目の前で藍染が虚を昇華したのだ。


・・・藍染と組まされたのは、確実に虚を仕留めるため。
山じいは絶対にそれを解って私と藍染を組ませて、蒼純様とリサさんを組ませたのだ。
私だって蒼純様と一緒が良かった・・・。


「藍染副隊長!」
虚の昇華を終えた彼が斬魄刀を鞘に収めれば、隊士たちが彼の元に駈け出していく。
咲夜は内心で拗ねながらその様子を眺めた。
「流石藍染副隊長です!」
「こんなに頼りになる副隊長が居られて、五番隊士は皆が喜んでおります!」
駆け寄ってきた隊士たちを、彼は柔和な顔で受け入れる。
それもまた、偽りの笑み。


・・・この男、危険だ。
咲夜の本能が警鐘を鳴らす。
近付いてはならない。
利用されてはならない。
心を許してはいけない。
誰もが彼を称賛し、彼を信頼しようとも、私だけは、彼を疑い、監視し、拒絶しなければならない。
彼の企みが何であるのかはまだ解らないけれど。


「この任務の計画を立てたのは、そちらに居られる漣副隊長だ。僕は彼女に従っただけだから、大したことはしていない。称賛されるべきは彼女の方だ。」
藍染の言葉に隊士たちの視線がこちらに向けられる。
・・・この男、私が今まで出会った者の中で一番嫌いかもしれない。
そんなことを思いながらも、咲夜は適当に微笑みを返した。


『ご謙遜を。此度の任務の成功は、藍染副隊長のお力があってこそ。平子隊長には後でお礼を申し上げておきます。優秀な副隊長をお貸しくださりありがとうございます、と。』
「それこそ謙遜だ。十番隊は、宗野隊長のような勤勉な隊長と、漣副隊長のような聡明な副隊長が居て、幸せだろうね。平子隊長は少々子どもの様だから。」


『それが、平子隊長のいい所でしょう。山じいのようにいつもいつも堅苦しくては、隊士たちが疲れてしまう。』
「ははは。総隊長にも手厳しいとは、流石漣家の当主だ。」
朗らかに笑う彼の瞳は、私に興味があることを隠せてはいない。
やっぱりこの男は嫌いだ・・・。


『私が当主であるかどうかなど、関係のないことです。総隊長殿はあれで、弟子には甘いところがあるのですよ。浮竹や京楽にだって、そうでしょう?』
微笑みを浮かべながら問えば、藍染もまた笑みを崩さない。
「あの方々に甘いのは、あの方々に実力があるからだよ。誰だって、可愛い教え子が隊長になれば嬉しいものだろう?」
『そうかもしれませんね。浮竹と京楽は、山じいの息子みたいなものですし。』


「そう言う君だって、大変可愛がられているようだが。」
『叱られた記憶しかありませんね。あの長い説教が愛だというのならば、こちらから願い下げです。』
吐き捨てるように言えば、藍染はくすくすと笑う。


「先に副隊長になったものとして言っておくが、あまり、そういうことを言うものではないと思うよ。隊士たちの前なのだから。」
『それは申し訳ありません。先輩の副隊長としてのお言葉、真摯に埋め止めさせて頂きます。』


「はは。硬いなぁ。僕が偶々先に副隊長になっただけで、同じ副隊長なのだから、敬語も敬称も必要ない。寧ろ、浮竹隊長と京楽隊長の同期である貴女に礼を取らねばならないのは僕の方かな?」
悪戯に問うその表情は、傍から見れば魅力的なものなのだろう。
現に、女性隊士が頬を赤く染めている。


『その必要はない。その代り、敬語も敬称もいらないというのならば、こちらも遠慮はしないが。』
「そうか。それならば、改めてよろしく、漣君。」
差し出された手を握ろうかどうか逡巡して、仕方がないかと手を差し出す。
触れた手は思った以上に冷たい。
いや、体温は温かいのだが、その奥にある何かが私の心を冷やす。


『こちらこそ。よろしく頼む、藍染。』
そう言って彼を見上げれば、彼の瞳が愉快そうに眇められた。



2016.09.14
Aに続きます。

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