蒼の瞳、紅の瞳
■ 侮れない男A

『・・・お初にお目にかかります。漣咲夜と申します。この一月、顔を見せに参じなかったご無礼をお許し願いますとともに、此度の十番隊隊長への就任を十番隊士としてお慶び申し上げます。よろしくお願いいたします。』
先ほどまで騒いでいた咲夜とは雰囲気が別人である。
その切り替えの早さに、その場に居た全員が舌を巻いた。


「・・・そうか。君が、鏡夜の・・・。」
その呟きを聞いたのか、咲夜は顔を上げて春雪に鋭い視線を向ける。
『父を、ご存じで・・・?』
「・・・いや、まぁ、うん。知っている。本当に、良い死神だった。」
『そうですか。』
頷きながら、何かを探るように春雪を見つめる。
何かを見透かすようなその視線に、春雪は居心地が悪そうに身じろいだ。


「・・・咲夜。宗野隊長に悪気はないよ。やめなさい。」
蒼純の声に、漸く咲夜の視線が春雪から外される。
『ですが・・・!』
「それは漣家の問題であって、今ここに持ちだすべきものではない。それは解るね?」
『・・・はい。』


「申し訳ございません、宗野隊長。彼女に代わって謝罪いたします。ですが、彼女は第三十一代漣家当主。色々と抱えるものがございます。今後は、その名を出すのは控えて頂くよう、お願いいたします。」
蒼純の強い視線に、春雪は思わず頷いた。


「・・・下がれ、蒼純。出過ぎるな。」
銀嶺に窘められて、蒼純は銀嶺の後ろに控える。
「・・・申し訳ありません。」
「よい。・・・済まぬな、宗野隊長。これらは少々複雑なのじゃ。」
「いえ。こちらこそ、申し訳ありません。地雷を踏んでしまったようで・・・。」


「構わぬ。・・・して、副隊長はどうするのじゃ?」
「はい。よろしければ、彼女、漣咲夜を指名させて頂きたく存じます。」
はっきりと言い切った春雪に、銀嶺はくつくつと笑い出す。
「・・・お主、見た目に反して豪胆よの。なるほど。確かに総隊長が推薦するだけのことはある。」


「私には勿体ないお言葉です。・・・それで、彼女のことですが。」
「構わぬ。好きにするがよい。咲夜に構いすぎると、毒と言われてしまうのでな。」
ちらりと蒼純に視線を送るが、彼はどこ吹く風である。


「では・・・漣咲夜。」
『はい・・・?』
「君を、私の副隊長に指名したい。引き受けてくれるだろうか。」
その問いに、咲夜はぽかんとした。


『わ、たし・・・?』
「そうだ。本来ならば、私などより、君の方が隊長に相応しいだろう。だが、君はそれを頑として断り続けているそうじゃないか。」
『それは・・・。』


「では、副隊長ではどうか。隊長と副隊長は表裏一体であり、互いに御し合う。少なくとも私はそう思っている。私に御されてみないか?」
そんなことをどこか楽しげに言う春雪に、咲夜は目を瞬かせる。
「それに、複雑な事情がある君だからこそ、ある程度重要な役職についていた方がいいと思うが。いつまでも朽木家の庇護の元に居るわけにもいかないだろう。そろそろ、自分の足で立つことが必要なのではないか、漣咲夜?」


『貴方は、一体、どこまで知っているのですか・・・?』
春雪の言葉に、咲夜は小さく動揺する。
「さて。私は、君の父、漣鏡夜から聞いた分の話しか知らない。」
何者なのだ、この男は。
咲夜は問うように元柳斎を見るが、答える気はないようだった。
ちらりと銀嶺を見ても、何も知らぬと首を横に振られるだけ。


自分で調べるしかない。
咲夜は内心で呟く。
「私に興味が湧いたかい?」
楽しげに問われて、自然と口角が上がるのが解る。
これは、私への挑戦状なのだ。
知りたいのならば、副隊長になれと、言われている。


『・・・えぇ。凄く。』
「では、引き受けてもらえるかな?」
『謹んで、お受けいたします。』
慇懃無礼に一礼すれば、朗らかな笑い声が落ちてくる。


「ははは。うん。よろしく、咲夜。」
突然の呼び捨てに目を丸くするも、不快感はなく。
寧ろ、その音が耳に馴染むような。
どこか、懐かしい音。
一体、どこで・・・?


「ん?どうかしたのかい?」
じっと見つめていたらしい。
不思議そうに首を傾げられた。
『・・・いえ。よろしくお願いいたします、宗野隊長。』


侮れない男。
これまで席官になることすら拒んでいた咲夜があっさりと副隊長になることに頷いたのだ。
実際、浮竹や京楽は、隊長に就任した際、咲夜に副隊長にならないかと打診したのだが、即答で断られた。
銀嶺や蒼純も、席が空くたびに咲夜にそれとなく席官になることを勧めていたのだが、さらりと流されてしまっていた。


それなのに。
目の前の男は、初対面であるにも関わらず、咲夜を頷かせた。
彼女の様子を見る限り、彼への敵意もないのだろう。
それもまた不思議で、皆が首を傾げる。
ただ一人、春雪だけが、その中心で楽しげに微笑んでいるのだった。
咲夜が彼の意図を理解するのは、鏡夜が彼と親友だったと語る時。
この日から、数百年も後のことである。



2016.08.03
この後、宗野隊長は死ぬまで鏡夜と親友であることを語りませんでした。
実は、咲夜さんが生まれてすぐに二人は顔を合わせています。
そのため、彼の声に懐かしさを感じたのでしょう。
咲夜さんの力のことは、鏡夜から全て聞いていた宗野隊長。
彼は山じいの秘蔵の弟子か何かだと思われます。
ちなみに、浮竹さんや京楽さんが生まれる前から死神なので死神歴はとても長いです。

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