蒼の瞳、紅の瞳
■ 侮れない男@

「・・・これをもって、宗野春雪を十番隊隊長に任ずるものとする。」
元柳斎の重厚な声に春雪は一礼を返す。
「謹んで、お受けいたします。」
「うむ。」


場所は、一番隊舎。
隊長副隊長が揃う中で、春雪の任官式が執り行われていた。
大半の隊長副隊長たちは、興味深げに春雪を見つめている。
柔和で、穏やかで、人の好さそうな、新しき隊長。
それまで名が知れ渡っていた訳でもない、いわば無名の隊士を隊長に推薦したのが総隊長その人である、ということが、彼らの視線を余計に集めるのだった。


・・・思っていたのとは、違うな。
そう内心で呟いた浮竹が、ちらりと京楽に視線を向ければ、彼も同じことを思っていたらしい。
視線が交わって、小さく頷きを返される。
二人とも、春雪の隊主試験には立ち会っていない。
そのため、今日初めて宗野春雪という男を目にしたのだった。


元柳斎先生の推薦があった、ということだけでも驚きなのに、その男がどこにでもいそうな普通の男だということにさらに驚かされる。
しかし、隊主試験に立ち会ったのは先生のほかに、二、四、五番隊の隊長。
四楓院隊長と卯ノ花隊長、それから平子隊長。


彼らが実力のないものを隊長として認めるとは、到底思えない。
その上、先生の推薦ということで、期待度も高く、恐らくこれまでの隊主試験よりも評価は厳しくなされたことだろう。
つまり、それだけの実力がある男、ということなのだ。


「・・・して、お主は未だ、副隊長を指名しておらぬようじゃが。」
元柳斎に問われて、春雪は苦笑を漏らす。
「六千を超える隊士が居る者ですから、そこから一人を選ぶには、時間がかかりましょう。」


「今日までに決めておけと、儂は言ったはずじゃがのう・・・。」
じろりと視線を向けられるが、それでも春雪がたじろいだ様子はなかった。
それを見て、浮竹と京楽は再び視線を交わす。
「申し訳ございません。気になる者がないわけではないのですが、未だ顔を見ることも敵わず、どうしようかと悩んでいる次第でして・・・。」
申し訳なさそうに言う春雪に、元柳斎は眉をピクリと動かす。


「その、気になる者とは?」
「貴方の教え子にございます。そちらの、京楽隊長、浮竹隊長の同期だとか。十番隊の隊士のはずなのですが、未だ姿が見えず・・・。」
春雪の言葉に、元柳斎だけでなく、銀嶺や蒼純までもがため息を漏らす。
浮竹と京楽はそれに苦笑するしかなかった。


「・・・春水、十四郎。」
低い声に呼ばれて、二人は姿勢を正す。
「何だい、山じい。」
「何でしょうか。」
問いながら、この後の命令が予想できてしまって、頭を抱えたくなるのだが。


「・・・咲夜を捕えよ。」
あぁ、やっぱり・・・。
もう苦笑しか出来ない。
そんな二人を不憫に思ったのか、銀嶺が口を開く。


「・・・蒼純。お主も行くがよい。」
「畏まりました。」
蒼純は一礼すると、すぐさま姿を消す。
それを見て、浮竹と京楽は慌てて彼の後を追った。


四半刻ほど後。
『な、何なのだ!?わ、私は、山じいに用などない!離せ、浮竹!!京楽!!』
二人に両側を固められて、がっちりと捕まえられている咲夜の騒ぎ声が一番隊舎に響く。


「こらこら。隊長たちの前でそう騒がないでおくれ。」
『・・・蒼純様!!この咲夜が何をしたというのですか!?いつからこの二人の味方になったのですか!』
抗議をするように言うが、蒼純は微笑みを崩さない。


「宗野隊長へ任官状が届いてから一月余り。宗野隊長は既に十番隊の隊長業務を引き継いでおられる。それなのに、一度も君の姿を見ていないとおっしゃる。一体、何をしているのかな、咲夜?」
表情は穏やかだが、言葉の端々に棘があることに気付いて、咲夜は動きを止める。


『・・・・・・仕事は、ちゃんとしています。』
「うん。我が六番隊の隊主室でね。」
『・・・知っているのならば、聞かないでください。』
拗ねたように言われて、蒼純は小さく笑う。


「いや、朽木隊長が、何時まで君を甘やかすのかと見ていれば、何時まででも甘やかすようなので。少々手厳しくいこうかと。」
蒼純の言葉に、咲夜だけでなく、銀嶺もまた動きを止める。
「暫く六番隊への出入りを禁止しようか?」
『そ、そんな・・・!!!』


「では、これからは十番隊で仕事をするね?」
『う・・・それ、は・・・。』
「本当に出入り禁止にするよ?」
にっこりと言われて、咲夜は涙目になる。


『・・・・・・わ、かり、ました・・・。』
呟くように言った咲夜に、蒼純は満足そうに微笑む。
「よし。いい子だね。・・・朽木隊長も、彼女を甘やかすのは程々になさってください。過保護になるのも解りますが、過保護も度を超せば彼女の毒となりましょう。」
咲夜の頭を撫でながら釘を刺されて、銀嶺は苦笑した。
「気を付けよう。」


「よろしくお願いいたします。・・・さぁ、咲夜。君の新しき隊長にご挨拶を。浮竹隊長、京楽隊長。彼女を離してあげてください。」
蒼純に頷いて、二人はそろそろと咲夜を解放する。
もしかしたらそのまま逃げるかもしれない、という危惧があったからだ。
しかし、二人の予想に反して、咲夜は大人しくその場に留まる。
隊長たちを見回して、春雪に視線を止めると、真っ直ぐに彼の元へと歩を進める。
そして片膝をついて首を垂れた。



2016.08.03
咲夜さんと宗野隊長。
Aに続きます。

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