蒼の瞳、紅の瞳
■ 父上が羽織になった日A

「日番谷隊長。」
「なんだ?」
「私が羽織になっても、青藍は悲しまないのだろうか。」
「・・・試してみりゃいいんじゃねぇか?」
大真面目に問われて、冬獅郎は呆れたように返す。


「なるほど。それもそうだな。」
白哉はそう言うと青藍を見る。
『ちちうえ?』
「目を瞑れ、青藍。」
青藍は首を傾げながらも素直にそれに従った。


次の瞬間、白哉は羽織を脱ぎ棄てて、窓から飛び出していく。
「「本当に試した!?」」
睦月と冬獅郎は、思わず声を上げる。
その間に、ぱさり、と白哉が脱ぎ捨てた羽織が地面に落ちた。


『ちちうえ・・・?』
羽織が落ちてきたのが解ったのか、青藍はゆっくりと目を開けた。
そして、自分が掴む羽織の先に白哉が居ないことに気が付いて、不思議そうに羽織を広げる。


『・・・。』
その羽織をまじまじと見つめて、青藍は徐々に涙目になる。
な、泣くのか・・・?
冬獅郎と睦月ははらはらとその様子を見つめた。


『・・・ち・・・。』
「「ち?」」
『ちちうえが、はおりになっちゃった!!!!』
青藍はそう言うと十番隊の隊主室を飛び出していったのである。


「・・・・・・青藍にとって、私の本体は羽織なのだろうか。」
「「!?」」
唖然としていた二人の耳にそんな複雑そうな声が届いて、二人は窓の方を見る。
そこには白哉が何かを思案するような顔をして立っている。


「いや、そうじゃ、ねぇ、だろ・・・。青藍、泣くぞ。・・・おい、どういうことだよ、草薙先生。こいつ、そこまで天然だったか・・・?」
「いや、俺も、正直、此処までとは・・・。」
ひそひそと会話をする二人に、白哉は視線を向けた。


「睦月。青藍を追え。私も日番谷隊長との話が終わったらすぐに追いかける。恐らく、十三番隊に行くことだろう。行け。」
「はいはい。解りました。」
言われて睦月はすぐに姿を消す。
それを呆然と見送って、冬獅郎は仕事の話を始めた白哉の声に、自分も仕事に戻ったのだった。


その頃、青藍は羽織を引き摺りながら、白哉の予想通り、十三番隊舎を目指していた。
ど、どうしよう!
ちちうえが、はおりになったら、ははうえは、かなしい!?
るきあねえさまも、かなしい!?
ぼくも、かなしい・・・。


「おやぁ?青藍じゃない。・・・どうしたの、その羽織。」
必死で駈ける青藍を見つけた京楽は、彼の前に姿を見せて、目を丸くする。
『しゅ、しゅんすい、どの!ちち、ちちうえが、はおりに!』
泣きながら羽織を見せた青藍に京楽は首を傾げる。


睦月が追い付いてきたのを見て、とりあえず、自分の手をするりと抜けだして駈けて行った青藍に付いて行ってみることにする。
「睦月君。青藍、どうしたの?」
「あぁ、それがですね・・・。」
その道中、睦月から話を聞いて、京楽は苦笑した。


そして、青藍は十三番隊舎に到着する。
「青藍?そんなに慌ててどうしたのだ?」
パタパタと駈けこんできた青藍に、ルキアは首を傾げる。
『る、るきあねえさまぁ!!!』


「ど、どうしたのだ!?何があった!?」
泣きながら抱き着いてきた青藍に、ルキアはおろおろとする。
『ちちうえが・・・。』
「兄様?」
『ちちうえが、はおりになっちゃった!どうやったらもとにもどるの?』


「え・・・?」
涙をぽろぽろと零しながら、縋るように言われて、ルキアは困惑する。
よくよく見れば、その手には羽織が握られている。
その白い羽織には六と刻まれていた。


ずるずると引き摺って来たであろうそれは、酷く汚れている上に、青藍がそれを踏みつけてしまっているのだが。
・・・こんな雑な扱いでいいのですか、兄様。
ルキアは内心で呟くが、青藍は何やら必死らしい。


はて、どうしたものか。
そう考え始めたルキアの元に、睦月と京楽が現れる。
えぐえぐと涙を流す青藍を抱きしめ返しながら、事情を聞いて、ルキアもまた苦笑する。
「・・・と、いうわけだ。青藍はこんな様だが、ご当主に悪気はないらしい。」
「あはは。流石というか、何というか・・・。」
「そうですね・・・。」



2016.07.01
Bに続きます

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