蒼の瞳、紅の瞳
■ 父上が羽織になった日@

これは橙晴と茶羅が生まれる前のお話。
青藍が甘えたい盛りの幼子の時のこと。


『ちちうえ!』
仕事をしていた白哉の耳に、そんな幼い声が響く。
「あ、こら、青藍!勝手に入るな。失礼します、だろ?」
扉を開けて、白哉に飛びつこうとした青藍を、睦月が諌める。


『しつれいします。』
「よし。」
ぺこりと頭を下げた青藍を撫でて、睦月は青藍の背中を軽く押した。
それを合図に、青藍は白哉の方へ駈けて行き、ぐるりと机を回って、椅子に座っている白哉の膝に飛びついた。


「青藍。」
白哉は筆をおいて、青藍を膝の上に抱き上げる。
『ちちうえ、おしごとは、いいのですか?』
舌足らずな話し方で、青藍は首を傾げる。


「休憩だ。」
『ほんとうですか?』
「あぁ。」
『ふふ。ちちうえ。』
白哉の返事を聞いて、青藍は楽しげに白哉の胸に擦り寄る。


「咲夜はどうした?」
『ははうえは、にんむに、いきました。ぼくが、いってらっしゃいを、してきました!』
「そうか。」
得意げな青藍を愛しげに見つめて、白哉はその頭を撫でた。


『ちちうえ、これは、なんですか?』
机に向き直り、白哉に背中を預けながら、青藍は机の上にあるものを指さす。
「隊長印だ。」
『たいちょういん?』
白哉を見上げて不思議そうに首を傾げる。


「隊長の、印だ。」
『ちちうえは、たいちょうだから?』
「そうだな。これがあれば、恋次に命令することが出来る。」
『おしごと?』
「あぁ。恋次に仕事を任せることができるのだ。」


『むつきにも?』
「睦月へはまた別の印がある。当主の印が。」
『とうしゅ・・・。ぼくもとうしゅになるのですか?』
「それは、青藍が自分で決めることだ。」


『ぼくがきめる・・・?ねぇ、むつき、どうして?』
唐突に聞かれて、二人の様子を見守っていた睦月は反応が遅れる。
どうしてと、言われてもなぁ・・・。
つか、何故俺に聞く。
そんなことを思いながらも、睦月は口を開く。


「当主というのは、大変だからだ。」
『たいへん?なんで?』
「お仕事がたくさんあるからだ。咲夜さんを守ったり、ルキアや青藍を守ったりするので大変なんだよ。」
睦月にそう言われて、青藍は再び白哉を見上げる。


『ちちうえは、たいへん?ぼくのせい?』
心配そうに言った青藍に、白哉は笑みを零す。
「大変なのは、青藍のせいなどではない。そんな顔をするな。」
白哉はそう言って青藍の頭を撫でる。
その手に安心したように、青藍は頷いた。


「さて、私は日番谷隊長の所へ行かなければならない。」
白哉はそう言って青藍を膝から降ろす。
『おしごと?』
寂しげに隊長羽織を掴みながら言われて、白哉は苦笑する。
「ついてくるか?」
白哉が問うと、青藍は瞳を輝かせて、大きく頷いたのだった。
『はい!』


仲良さげに歩く親子を、睦月は後ろから眺める。
隊士たちが白哉に挨拶をすると、白哉の代わりに笑顔で挨拶を返して、微笑ましく見守られていた。
「しかし、何故、手を繋がない、ご当主・・・。」
睦月は呆れたように疑問を口にする。


確かに身長的に手を繋ぐのはご当主が屈まなければならないのだが。
それでも、手を繋いだ方が、青藍は喜ぶのに。
こんなところでも不器用さを発揮する白哉に、睦月は内心苦笑する。
「まぁ、あれはあれで、いいのかもな。」


そう呟いた睦月の視線の先には、白哉の隊長羽織をしっかりと掴んで白哉に付いて行く青藍の姿がある。
「まるで犬の散歩だな。いつものことだが。」
足元にまとわりつく青藍を窘めながら歩を進める白哉に、睦月は小さく笑う。


「失礼する。」
十番隊に着いて、白哉は隊主室に入る。
「あぁ、悪いな、朽木。・・・青藍も来たのか。」
書類から目を離した冬獅郎は、白哉にくっついている青藍を見つけて呟く。


『しつれいします。』
「あぁ。・・・なんでお前、いつも羽織掴んでるんだ?」
冬獅郎は不思議そうに言う。
『ちちうえだから!』


「・・・へぇ。朽木は羽織だったのか。それは知らなかったな。」
「ほう。それは私も初めて知った。」
意外そうに返しながら、何かを考え始めた白哉に、冬獅郎は呆れた視線を向ける。
「いや、それでいいのか、お前・・・。」



2016.07.01
Aに続きます

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