蒼の瞳、紅の瞳
■ 夜語りB

「俺はね、ご当主。貴方と咲夜さんを見て、初めて他人を羨ましいと思いました。」
睦月は俯く。
「俺には、そういう他人との繋がりがない・・・。」
呟くようにそう言った睦月に白哉は思わず彼の方を見る。


睦月が自分のことを語るのは珍しいのだ。
他人のことならば、事細かに分析して話すことが出来るのに。
そして、気が付く。
この男もまた、闇を抱えているのだと。
それ故に孤独なのだと。


白哉はそう思って霊術院での睦月を思い出す。
あれもまた、孤独故の行動なのだろう。
全く、私の周りには色々なものを抱えているものが多い。
勿論それは私自身にも言えることだが。
白哉は内心苦笑する。


「・・・私は、そなたに感謝している。」
「え?」
白哉の言葉に睦月は顔を上げた。
「百余年前の咲夜は、私や浮竹、京楽にも弱さを見せなかった。あれの闇は深い。あれはそれをよく解っていた。それ故、余計に私たちに隠したのだ。・・・だが、そなたには違ったらしいな。」


「そう、でしょうか・・・。」
「あぁ。そなたはすぐに咲夜を見抜いた。咲夜もあれで人をよく見る。そなたに見抜かれていることを見抜いたのだろう。自分のことを見抜いている相手に自分を隠す必要などあるまい。そなたも、そう思ったから咲夜のそばに居るのではないか?」
そう言われて、睦月は目を丸くした。
そんな睦月を白哉は真っ直ぐに見つめる。


「は、はは・・・。」
見つめられた睦月はそんな笑い声を零した。
なるほど。
言われてみれば、確かにそうだ。
「・・・そうですね。そうかもしれません。」
睦月はそう言って頷いた。


「睦月。」
そんな睦月から視線を外しつつ、白哉は彼の名を呼ぶ。
「はい。」
「私は、どうでもいい相手と、このようにゆっくりと酒を呑んだりはせぬ。」
「はい。」


「わざわざ邸に専用の部屋を用意したりはせぬ。」
「はい。」
「どうでもいい者の作った薬を飲むような酔狂さも持ち合わせていない。」
「はい。」


白哉は視線を睦月に視線をもどし、彼をひたと見つめる。
「・・・これでもまだ、他人との繋がりがないというか?」
見つめられて、睦月は少し狼狽えた。
そして、白哉の視線に耐えかねたように目を閉じた。


此処でそれを否定してしまったら。
俺はここから離れられなくなる。
常に放浪している草薙の一族に生まれ、一族の頭領まで務めた睦月は、他人とは常に一定の距離感を保ってきた。


霊術院の医師となったのは、一族を捨て放浪していた俺を拾ってくれた先代の霊術院の医師への恩返しでもあるが、年々生徒の顔ぶれが変わり、医務室に居れば他の教師たちとの余計な付き合いがないからだ。
俺はずっと観察者だった。
他人の輪の中に入りたいとも思わなかった。


でも、今の俺は・・・。
睦月は閉じていた目をゆっくりと開く。
そして白哉の目をしっかりと見返した。
「・・・いいえ。」
そしてはっきりとそう答える。
その答えを聞いて、白哉は視線を緩めた。


「そうか。ならばよい。」
「俺は・・・ここに居てもいいんですか?」
「当たり前だ。好きなだけ居れば良い。」
「俺には、帰る場所というものがありません。」


「ここに帰ってくれば良い。・・・始めは咲夜のためにそなたを迎え入れたが、私はもう、そなたが嫌だと言っても、そなたを手放すつもりはない。そなたはすでに、朽木家の手の中にある。そう簡単に逃げられると思うなよ。」
白哉はそう言って不敵に笑う。


「・・・はいはい。全く、ご当主は我が儘ですねぇ。傲岸不遜で傲慢で、仏頂面で不器用で言葉が足りなくて、無自覚で天然でその上容赦がない。俺には敵いそうもありませんよ。」
睦月は苦笑する。


「そなた、実は私のことが嫌いだろう・・・。」
文句ばかり並べたてられて、白哉は拗ねる。
「そんなことはありませんって。拗ねないでくださいよ・・・。そんなご当主でも、俺は付いて行くっていう話じゃないですか。」
「・・・そうか。ならば好きなだけ働いてもらおう。」
白哉は楽しげに言った。


「いや、それはちょっと勘弁したいですけど。」
楽しげな白哉を見て、睦月は顔を引き攣らせる。
「私は容赦がないのだろう?」
「それは、そうですけどね・・・。」
「ならばいいではないか。」


「いや、あの、少しは、優しくしてもらえると、嬉しいなぁ、なんて。」
「ほう?私は少しも優しくないということだな?」
「いやいやいや。そんなことは・・・ないとも言えませんけどね。」
睦月はそんなことをぼそりという。


「聞こえているぞ。」
「いや、それは、すみません。つい、本音が。俺、嘘はつけないもので。」
「どの口がそんなことを言っているのか。皆に聞かせてやりたいものだ。」
「え、それは勘弁してくださいよ、ご当主・・・。」
そんなこんなで夜は更けていったのだった。



2016.06.19
睦月と白哉さんの秘密の話。
きっと咲夜さんがこの話を聞くことはないのだと思います。

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