蒼の瞳、紅の瞳
■ 夜語りA

「それから、ルキアたちが霊術院に入学してきました。咲夜さんは彼女らの才能をすぐに見抜いて、目をかけていた。彼女らは咲夜さんの期待に応えようと、必死に勉強して、力をつけていったんです。そしてルキアたちは良く咲夜さんを慕っていました。咲夜さんは、それを見て、自分が必要とされていると、そう思うことが出来た。・・・その後に、日番谷が入学してきました。」


小さな日番谷を思い出して、睦月はふと笑みを零す。
「彼は感情を表に出すこともなくて。人形のようでした。でも、日番谷には、ちゃんと心がありました。それを見抜いた咲夜さんは、初対面の日番谷に「君は人形のふりでもしているのか?」と言い放った。」


睦月の言葉に白哉が小さく笑む。
「咲夜らしいな。」
「えぇ。そうしたら日番谷は「じゃああんたは、人のふりしてる人形だな。」って。俺は内心舌を巻きましたよ。彼奴は一瞬で咲夜さんを見抜いた。あの頃の咲夜さんはある程度回復していましたから、そう簡単に彼女の精神状態を見抜くことは出来なかった。」


人形のふりをする少年と、普通の女のふりをする人形。
そう形容することが出来る二人の者が出会ったのだ。
「咲夜さんはそれを聞いて思いっきり笑いました。声を上げて。涙目になるほどに。」
睦月が、あれ程声を上げて笑う咲夜を見たのは、あの時だけである。


「・・・それが、咲夜さんをいい方向に導きました。笑うというのは医学的な見地からみても、非常に精神に良い影響を与えるのだそうです。咲夜さんは思い切り笑ったことで何か吹っ切れたようだった。殻が破られたというか・・・。もう、そこからは日番谷を可愛がって、構い倒して、彼は大変そうでしたけど。」
「今もその傾向はある。たまに、日番谷隊長から苦情が来るくらいだ。」
白哉は複雑そうに言う。


「ははは。・・・でも、なんだかんだ言いつつ、日番谷は咲夜さんを拒絶しなかった。多分、日番谷にも咲夜さんが必要だったのでしょう。日番谷の感情が少しずつ、本当に少しずつですが、表に出てくるようになりましたから。こんなことを言うのはあれかもしれませんが、あの出会いがなければ、日番谷は隊長にはなれなかっただろうと思います。彼奴も、何か足りないやつだった。力があるだけでは隊長にはなれません。」
睦月の言葉に白哉は静かに頷く。


「日番谷が霊術院に居る間に、咲夜さんの精神状態は安定していった。でも、日番谷が卒業すると、咲夜さんは突然姿を消しました・・・。」
「咲夜が霊術院に居ることを私が見つけたからだろう。」
「そうだったんですね。俺はね、また何かあったんじゃないかと、咲夜さんを探したんですよ?あの人は一人にしておくとすぐに不安定になる。」


「そうだな。だが、あれは一人になりたがる。」
白哉は困ったように言う。
「はい。でも、その後ひょっこりと霊術院に姿を見せた咲夜さんは、変わっていた。俺の知らない間に何があったのだろうとすごく興味を引かれた。で、聞いたら結婚したというじゃないですか。あれには本当に驚きました。咲夜さんと結婚するなんて、爆弾を抱えるようなものですからね。」
睦月に言われて白哉は思わず笑う。


「確かにそうだ。」
「でも、ご当主を見たら、納得しましたよ。咲夜さんをこの世界に繋ぎとめていたのは間違いなく貴方だ。知っていますか、ご当主?咲夜さん、ご当主の名前を絶対に最初に呼ぶんですよ。浮竹さんや京楽さんがいても、まず、ご当主の名前を呼ぶんです。」


「そうか?」
言われて白哉は首を傾げる。
「はい。今度、調べてみるといい。必ず貴方の名前を最初に呼びます。」
睦月は確信を持って言う。
「それは面白いことを聞いた。今度試してみよう。」


「えぇ。名前を呼ぶ順番というのはその人の中でどういう風に順位付けがされているか解るものです。もちろんそれは無意識に行われるですが。ご当主が最初に名を呼ぶのも咲夜さんですけどね。全く、似た者同士というか、なんというか・・・。」
睦月は呆れたように言った。


「でも、不思議なのは、お二人、似ているだけじゃないんです。似ているのに正反対なんですよね。それで、お互いに足りない部分を補っている・・・。」
「そう見えるか。」
「はい。ご当主、不器用ですもんね。ルキアに対する愛情表現とか。」
「・・・五月蝿いぞ。」
睦月に言われて白哉は拗ねたように言う。


「はは。咲夜さんがルキアをあれ程可愛がるのは、それを無意識に補おうとしているのでしょう。つまり、ご当主がもっとうまくルキアを可愛がれば、ルキアを可愛がる咲夜さんにご当主が放って置かれることも少なくなるでしょうね。」
「なるほどな。」
白哉は苦笑する。



2016.06.19
Bに続きます。

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