蒼の瞳、紅の瞳
■ 23.やっぱり敵わない

『それに霊妃が私に降りてこないということは私が安定したからなのだろう。漣家に居た頃は、一人が嫌になって霊妃にすべてを渡してしまおうと思ったことが何度もあった。それでも霊妃は私を乗っ取ることはせずに、私を見守ってくれていた。だが、君たちと出会ってからは、私は独りではなくなったからな。』
「そうか。」


「じゃあ、今回霊妃が降りてきたのは本当に気まぐれなんだな?何か理由がある訳じゃないんだな?」
浮竹が心配そうに問う。


『あはは。そうだな。私は今幸せだ。たぶん、私が呼ばなくなったから暇を持て余してい
るのではないか?叔母上の元に降りることもたまにあるようだが、そう長くは降りていられないからな。』
心配そうな浮竹を見て咲夜は笑う。


「それならいい。全く、突然降りて来るなんて心臓に悪いぞ・・・。」
「本当だよ。咲ちゃんは独りで抱え込もうとするんだから。」
『ふふ。最近はそうでもないだろう?』
「昔よりは、ましになったか・・・?」


「あはは。そうだねぇ。それでも朽木隊長には甘える癖に僕らにはなかなか甘えてくれないけどね。」
「もっと甘えてもいいのだがな。」
白哉は静かに言った。


『私がいつ白哉に甘えたっていうんだ・・・。』
「昨日だって、朽木隊長にべったりだったじゃないか。」
「確かにそうでしたね。」
ルキアが苦笑して答える。


『何!?私昨日何かしたのか!?』
彼等の様子に咲夜は焦ったような声を出す。
「いやぁ、全く見せつけてくれたよねぇ。」
「そうだな。お蔭で俺は酷い目に遭った・・・。」
「私もなかなかあれに慣れることはできません・・・。」


『ちょっと!?何があったんだ!?私は何をしたんだ!?白哉!?』
「そなたが私に抱き着いただけだ。大したことではない。」
『!!!』
「そうそう。皆の前で抱き着いた上に、朽木隊長にすり寄ってたんだよねぇ。」
「そうだな。寝ぼけていたのか、話し方が子どものようだった。」
「あれ程寝ぼける咲夜は貴重だな。」
「咲夜姉さま、とても可愛らしかったですよ。」


『うわぁぁぁ!!忘れろ。今すぐ全員忘れろ。』
ルキアの言葉に咲夜は真っ赤になる。
「断る。」
「嫌だね。」
「そうだな。」
「そうですね。」
焦る咲夜に皆が楽しそうである。


「・・・皆さん、楽しそうですねぇ。まぁ、咲夜さんをからかう機会なんてそうないですけど。」
睦月は呆れたように眺めている。
『・・・もう嫌だ。』
咲夜は部屋の隅で落ち込んでいる。


「そう落ち込むな。そろそろ帰るぞ。」
「そうですね。青藍は私が預かります。」
「あぁ。咲夜、帰るぞ。」
『白哉の莫迦。白哉のせいだ。どうしてくれる。』
「ほう?そのようなことをいうか。余程私に抱えられて帰りたいらしい。」
白哉はそう言うと咲夜を問答無用で抱き上げた。


『ちがっ!!白哉!!降ろせ!!』
「大人しくしろ。大体、そなたが眠っているときはいつもこうして帰っているのだ。今さら気にすることはないだろう。・・・ルキア、帰るぞ。」
「はい、兄様。」


『今日は起きているんだから自分で歩ける!!降ろしてってば!聞いているのか!?』
「睦月、今日は朽木家に泊まる日であろう?」
「そうですね。じゃあ、俺も一緒に帰ります。」
『ちょっと!誰か私を助けろ!』


そういって暴れる咲夜を浮竹や京楽は面白そうに眺めるだけである。
白哉に至っては降ろす気は毛頭ないらしい。
「では、失礼した。」
「お先に失礼します。また明日。」
「あぁ。お疲れ様。」


『皆して私のことは無視か!泣くぞ!』
「泣けばよかろう。私が慰めてやるが?」
白哉はそう言って咲夜を流し目で見た。
『!!!』
「本当に、咲夜さんはご当主に敵いませんねぇ。」
睦月はしみじみと呟いたのだった。
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