蒼の瞳、紅の瞳
■ 15.質の悪い冗談

翌日。
咲夜はいつものように青藍と共に雨乾堂にやってきていた。
『浮竹。入るぞ。』
そういって中からの返事を待つことなく部屋に入る。
「お前、せめて俺が返事してからにしろよ・・・。」


『いいじゃないか。それとも見られて困ることでもしているのか?』
呆れたように言った浮竹に、咲夜は悪戯っぽく返す。
「そんなわけないだろ。」
『あはは。昨日は悪かったな。途中で眠ってしまって。』
「いや、構わん。次からはお前も同窓会に参加してくれるんだろ?」
『あぁ、そうだな。呼んでくれれば行こう。』


「・・・白哉は何か言っていなかったか?」
浮竹は机に向かいながら何でもないことを聞くように言った。
勿論、内心は昨日の話を本人にされていないか穏やかではなかったが。
『白哉?そういえば、「浮竹に話は最初から最後まで聞いていたといっておけ」って言っていたな。』


・・・つまり、昨日のあれはからかわれていたのか。
はぁ。
焦って損した。
質の悪い冗談だ。
浮竹はそれに思い当って内心で深くため息を吐いた。


白哉の奴、相変わらず俺と京楽には容赦がない・・・。
彼奴は意外と他人で遊ぶのが好きなんだよな・・・。
周りに居るのが漣や四楓院だから、彼女らに遊ばれている姿をよく見るが。
いや、彼女たちが周りに居るからそうなったのか・・・?


「そうか。」
『?何かあったのか?』
咲夜は不思議そうに言った。
「なんでもないさ。」
浮竹は苦笑して答える。


『教えてくれてもいいじゃないか。』
咲夜は不満そうな顔をする。
「大したことじゃない。お前の夫になれるのは白哉だけだという話をしただけだ。」
『そうか。私もそう思う。』
咲夜はそう言ってほほ笑む。


その笑顔をみると、浮竹はやはり自分では駄目だったのだと思う。
寂しさは感じるが、白哉を妬む気持ちなど全くないのだ。
彼女も白哉も、自分にとっては大切な存在であることに変わりはないのだから。


夕刻。
「やぁ、浮竹。」
雨乾堂に京楽がやってきた。
今日も咲夜は青藍と共に夢の中である。
「京楽。どうしたんだ?」


「いやぁ、酒でも呑もうかと思ってね。」
「昨日の今日でまた呑むのか。」
酒瓶を提げた京楽に浮竹はあきれ顔である。
「いいじゃないの。・・・咲ちゃんは、相変わらずのようだね。」
「はは。そうだな。」


「・・・浮竹ってば優しいねぇ。」
「そうか?」
「そうでしょ。昔の話とはいえ、昔好きだった人とずっと一緒に居るんだよ?それに、その人と他の男の間に生まれた子どもの世話までしちゃってさ。」


「はは。今はもう、そんな気はないからな。それに、漣が幸せそうだからいいんだ。白哉だって俺にとっては可愛い息子みたいなものだからな。青藍はそんな二人の子どもなんだ。可愛くないわけがないだろう。」
浮竹は眠っている咲夜と青藍を見つめながら言った。


「ほんと、浮竹だよねぇ。で、咲ちゃんが普通にここに居るってことは、昨日の話は聞いていないってことだよね?」
「あぁ。白哉は最初から最後まで話を聞いていたらしい。まったく、俺で遊ぶなんて酷いぞ・・・。」


「あはは。やっぱりそうだったか。あんなこと言った割には負の感情がなかったからね。」
「・・・気付いていたなら教えてくれよ。」
笑う京楽に浮竹はじとりとした目線を向ける。


「いやぁ、面白かったからさ。それに、朽木隊長が酔っていたという可能性もあったし。」
「白哉があの程度の量で酔う訳ないだろ。」
「あは。まぁ、良かったじゃないの。今まで通り、咲ちゃんは雨乾堂にやってくるんだから。」


「まぁな。」
浮竹はそう言って湯呑に入ったお茶を飲む。
すると、定時の鐘が鳴った。
「今日も無事に終わったか。」
「そうだねぇ。」


「お前はちゃんと仕事をしてきたんだろうな?」
浮竹は京楽に疑いの目を向ける。
「もちろんだよ。さっきまで七緒ちゃんに縛り付けられていたんだから。」
「・・・伊勢副隊長も大変だな。」


「まぁ、いいじゃないの。僕だってやるときはやる男さ。」
「それを知っているから、普段からちゃんとしてくれたらいいのに、と思われるんだろ。」
「あはは。そうかもね。でも、真面目な僕なんて僕じゃないでしょ?」
「・・・まぁな。」
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