■ 13.瞠目
数百年、共に歩んできた友の突然の告白に京楽は瞠目した。
「本当かい?」
「あぁ。認めるよ。俺は、漣が好きだった。」
・・・全く気が付かなかった。
この男は本当に愛だの恋だのを匂わせない。
「今でも、そうなのかい?」
そうだったら、辛すぎる。
共にいた時間は僕らの方が長いのだ。
ずっとそれを心に秘めて、あの二人に笑顔を向けていたのか?
「まさか。漣は大切な友人だよ。あの時はそうだったという話だ。恋というには淡すぎる感情だったしな。それに、漣も白哉も幸せそうだし、青藍も可愛い。俺はそれが嬉しい。」
浮竹はそう言って軽く微笑む。
「そっか。君は好い男だねぇ。まぁ、呑もうじゃないか。浮竹の失恋祝いだ。」
「「「浮竹・・・。君って奴は・・・。」」」
再び二人で飲み始めようとすると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
「本当に、いい奴だな、お前。」
「でも、奥手すぎるぞ。」
「そんなんじゃ、自分が幸せになれないじゃないか。」
次々とそんな声が掛かる。
何故かみんな目には涙を浮かべている。
「お前ら・・・聞いていたのか。」
そんな彼らに浮竹は呆れたように言った。
「あはは。」
その様子を見て京楽は笑う。
「京楽、お前・・・気付いていたな?」
浮竹はそういって京楽を横目で睨んだ。
「あはは。いつかのお返しさ。僕なんか咲ちゃん本人に聞かれちゃったんだから。」
「「「何!?京楽もだったのか!?」」」
「僕は違うよ。そんなこと本人に聞かれたら恥ずかしくて顔なんか合わせられないよ。」
「そうだな。今聞いたことは漣には絶対に言うなよ。言った奴には容赦しないからな。」
浮竹は笑顔で言い放つがその目は本気である。
「「「ははは。いう訳ないじゃないか・・・。」」」
「・・・浮竹、それは脅しって言うんだよ。」
京楽はポツリと呟く。
「何か言ったか?」
すかさず浮竹の鋭い視線が京楽に向けられる。
「いや、何も。」
そんな浮竹に京楽も黙って頷くしかなかったのだった。
「浮竹。」
浮竹たちが騒いでいると、白哉が声を掛ける。
その腕には咲夜が抱えられていた。
「漣は寝てしまったのか?」
「あぁ。緊張していたようだったからな。気が抜けたのだろう。今日はもう連れて帰るぞ。」
「そうか。」
「それは残念。咲ちゃんともっと呑みたかったなぁ。」
「そこで寂しく呑んでいろ。咲夜は私のものだ。」
「ちぇ。ほんとに朽木隊長はずるいや。」
「何だそれは。」
拗ねた様子の京楽に白哉は鬱陶しそうに言う。
「・・・咲ちゃんに愛されるなんてずるい。」
「当然の結果だな。私がどれほど苦労したと思っているのだ。」
溜め息交じりに白哉は言った。
「ははは。お前、漣を手に入れるために相当根回しをしていたそうだな。天音殿の元にも行ったのだろう?」
そんな白哉をからかうように浮竹は言う。
「五月蝿いぞ。」
「まぁ、そうだよねぇ。咲ちゃんに愛だの恋だのを自覚させるのも大変だよねぇ。」
京楽はそう言ってニヤニヤとしている。
「黙れ。私はもう帰る。ルキア、青藍も帰るぞ。」
「はい!兄様。」
「それから・・・。」
『ん・・・。』
白哉が何か言おうとしたところで咲夜が身じろいだ。
そしてゆっくりと瞳が開かれる。
『びゃくやだ。』
そう言ってほほ笑むと白哉の首に腕を回した。
『今日は、皆と一緒で、楽しかった・・・。白哉も、ルキアも青藍も居て・・・。』
「そうか。それは良かったな。」
『白哉、あったかい・・・。』
「眠いならまだ眠っていろ。」
首元にすり寄ってきた咲夜の頭を撫でて白哉は言った。
『うん。おやすみ、びゃくや。ありがと・・・。』
その温もりに安心したのか、咲夜は再び夢の中へと戻っていく。
その様子を、浮竹らはまじまじと見つめた。
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