蒼の瞳、紅の瞳
■ 11.愛することに後悔はない

『・・・他人の手が、こんなに温かいことなど、忘れていた。漣家では愛されていなくても、お爺様や蒼純様が私を愛してくれていたのに。私は、それを忘れて、自分は独りだと思い込んでいた。』
ぽつりぽつりと話す私に、白哉は優しいまなざしを向けてくる。


『あの日々は、私を今でも苦しめる。でも、あの日々があったからこそ、私は今、自分が幸せ者だと思えるのかもしれない。』
「そう思えるようになったのか。」
『うん。ありがとう、白哉。君は、いつも私の光で、私を導いてくれる。そして、私のすべてを知っても、恐れることなく受け止めてくれている。感謝してもしきれない。』


咲夜はそう言って綺麗に微笑む。
その微笑を見て、白哉は先ほどの嫉妬や独占欲などといった醜い感情が浄化されていくような気がした。
彼女にこの表情をさせることが出来るのは、私だけなのだ。


そして、彼女の身も心もいつだって私の傍にある。
私が彼女のそばに居るように、彼女もまた、私のそばに居るのだ。
この手のぬくもりが、彼女のまなざしが、彼女の全てが、私に向けられている。
「・・・助けられているのは、感謝するのは、私の方だ。」


どんな時も、彼女は私を見守ってくれた。
そばに居てくれた。
私にはそれが当たり前のことだった。
だから、彼女が姿を消した時、私はただ戸惑った。
道標を失ったようだった。


「咲夜が朽木家に居たお蔭で、私は寂しい思いをする暇がなかった。爺様や父上が仕事でなかなか邸に帰らないときも、そなたが傍に居てくれたのだ。」
『ふふ。そうか。』
「剣や鬼道の稽古も、負けてばかりだったが、楽しかったのだ。」
『うん。私も楽しかった。』


「それから、母上が亡くなったとき、咲夜は私を泣かせてくれた。じい様の前でも、父上の前でも私は泣けなかった。泣くべきではないと、思っていた。」
『そうだったな。』
懐かしむように咲夜は頷いた。


「泣いていいと、言ってくれたのは咲夜だけだった。」
『今だって、いつでも泣いていい。私が全てを受け止めよう。』
そう言った咲夜に、白哉は目だけで笑う。


「そなたは私を光だと言ったが、私の光は咲夜だ。咲夜はいつも眩しい。幼いころから、そんな咲夜に、私は追いつきたかった。ずっと私の目標だった。」
『ふふ。今日はやけに素直だな。もう酔っているのか?』
咲夜は茶化すように言った。


「・・・そうかもしれぬ。余計なことを話したな。」
ふ、と微笑んで白哉は言う。
『まぁ、そんな白哉も好きだけれどね。』
つないだ手に指を絡ませて、咲夜は悪戯っぽく笑った。


緋真。
私はそなたを裏切っているのかもしれない。
そなたは死してなお、私の心の拠り所となってくれていたのに。
済まぬ、緋真。


恨むならば、私を恨め。
しかし私は咲夜を愛していることに後悔はしていないのだ。
そして咲夜は、そなたを愛した私をも、愛してくれているのだ。


許せ、緋真。
白哉は心の中でそう呟く。
(「白哉様の幸せが、緋真の幸せにございます。」)
すると、何処からか、そんな声が聞こえてきたような気がした。
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